内田絵梨
「お 澄 さん…… 私 は 見事 に 強請 つたね。―― 強請 つたより 強請 だよ。いや、 此 の 時刻 だから 強盗 の 所業 です。しかし 難有 い。」
※旧漢字を全て新字体に変えております。
泉鏡花の『鷭狩』の一節です。彼の作品は全て総ルビなので漢字を読めた気になって、ついついつるつるっと読み進めてしまうのですが、ふと違和感が……。
ちょっと待てーい! 「ねだる」のと「ゆする」のって同じ漢字なの?!!
辞書で引く「強請」
気になったので私の10年来の相棒であるCASIOの電子辞書ちゃんに聞いてみました。「強請」と入力して漢字検索です。
その結果がこちら。
きょう-せい【強請】
〈名〉(スル)無理に頼むこと。また、ゆすること。ごうせい。
引用:大辞泉もが・る【強請る/虎落る】
〈動ラ四〉
①異議を申し立てる。逆らう。
②言いがかりをつけて金品をねだる。ゆする。たかる。
引用:大辞泉ねだ・る【強請る】
Ⅰ〈動ラ五(四)〉
①甘えたり、無理に頼んだりしてほしいものを請い求める。せがむ。せびる。
②難癖をつけて要求する。ゆする。、
③ぐずぐず文句を言う。ごねる。
Ⅱ〈動ラ下二〉Ⅰに同じ。
引用:大辞泉ゆすり【強請】
〈名〉人の弱みにつけこんで金品をおどし取ること。また、その人。
引用:明鏡国語辞典
ひぇー! こんなに読み方があるのですか!
それに、「もがる」なんて言葉、初めて知りました。ただ、どれも漢字の意味通り「強く請う」という言葉の核は同じですね。
作品で使われるふりがな
また、青空文庫が無償で提供している作品データのうち著作権保護期間が満了しているものや、Wikipediaに登録のある文章のふりがなを検索できる「ふりがな文庫」さんで調べてみると、「せがむ」「せびる」「いたぶる」といったルビが振られているものもあることが分かります。
どれも「強請」という漢字から連想はできそうですが、ルビが振られていないと初見で読み下すのは難しいでしょう。作者があえてその漢字を用い、「こう読んでほしい」という思いを込めて振ったふりがな。しっかり味わいたいですね。
さて、ルビが振られていないものに関しては、これはもう、前後の文や送り仮名から推察するか、調べてみて一番しっくりくる言葉で読むしかないでしょう。
もしかしたら作者の意図しない解釈が生まれ、それはそれで作品の新しい楽しみ方ができるかもしれません。