植村明美
国立西洋美術館本館の建物は20世紀の建築界の巨匠、ル・コルビジェが建築したもので2016年世界遺産に登録されました。
一見ごく普通のシンプルな建物に見えるこの本館ですが、まずはその点が最大の特徴であることがわかります。現代の建築はコルビジェの現れるコルビジェ前、とコルビジェ後で全く異なります。
下の写真でもわかる通り、1Fのエントランス付近はピロティとなっています。これはコルビジェが初めて提唱した建築様式で、壁がなく柱のみで1階部分を造ることにより、空中に浮いたように表現するとともに1階に開放された空間をつくることができるのです。
また、柱、壁、階段の手すりなど全て直線的ですっきりとしており、それまでの曲線的で優雅さを良しとする考えとは全く違っています。
今、この建物を見て、特に目を惹く建物ではないけどなと思うのは、ピロティや直線的な構造などコルビジェが始めたことにより皆が真似をした建築様式が広く世界中に浸透して今では普通となったせいかもしれません。
美術館には前庭があり、庭は入場料を払わなくても自由に見ることができます。
そこを初めて訪れたわたしはとても満足しました。何と言っても無料で、考える人などロダンの有名な彫刻をじっくりと鑑賞することができるのですから。
そのとき、私はひとつの作品「カレーの市民」の前で急に考えこみました。
あれ? 確かニューヨークのメトロポリタン美術館に行ったときに見て感激した記憶がある。ええ~? ということはこれはコピーなのかしら?
大体、こんな庭に置かれちゃって、雨ざらしだし、タダで見れるわけだし。
ということは、もしかしてこの考える人もコピーじゃないの? でもねえなんてったって美術館だもの。しかも国立の。そこにあるんだからやっぱり本物なのかなあ。本物だよねえ。
私の記憶力最近本当に信用できないし。
美術館の中にいれば「あれは本物ですか」と係の人に聞いたかもしれないですが見当たらず。
帰ってから調べてみました。
彫刻というものは硬い石や金属、木などを切ったり削ったりして人や動物、物などの形を造ったもの。
この庭にある作品はすべてブロンズ製の彫刻ですがブロンズ像の場合は作者がまず石膏などで元になる彫刻の型を作りあげます。それをもとに鋳造家が型にブロンズなどを流しこんで最終的に作品とします。
建築家が設計をしても自分で家やビルを建てるわけじゃないのと似ているのかもしれません。
手順としては
1.作者が粘土などで原型を制作
2.原型を石膏などで型取り
3.その原型をもとに鋳造所の熟練の職人が金属を型に流してブロンズ像を制作
そのため、元の型さえあればいくらでも同じものが出来上がってしまう。
それであらかじめ作者が1つの原型から何体までなら制作してよいということを決めておくのだそうです。
できあがった作品は「本物」ではなくオリジナル、とかエディションとか呼ばれるようです。
したがって、彫刻は絵画とは違い、彫刻家が決めた数だけ作品をつくれることになり、その決められた数の中でできたものは「コピー」ではないのです。
ちょっと版画に似ている感覚ですね。
ロダンの考える人の場合は、何体つくれるかを決める権利をフランス政府がもっていて、フランス政府の管理している彫刻は大体オリジナルが12体なのですが、この考える人は全部で21体作成されました。
一番初めの1体が一番価値があるとか、作者の生きているうちに作られたものでないと本人の最終チェックが入らず価値が下がるので、死後の鋳造は禁止にするとも言われているようですが、現在はまだ決まっていません。
ということで、考える人のオリジナルは東京・上野の国立西洋美術館の他
京都国立西洋美術館
長島美術館
西山美術館
他、ロダン美術館、メトロポリタン美術館など世界各地に存在します。大きさも色々です。
そしてこの考える人は、もともとはやはり国立西洋美術館の庭に展示している、おなじくロダンの地獄の門の上で見下ろしている人を単体で大きくしたものなのです。
地獄の門も世界中で鋳造されておりこの西洋美術館のブロンズと併せて7か所に存在します。フランスのオルセー美術館にあるものが白いのは最初に造られたロダンのオリジナル石膏原型だからです。
結論から言うと、本物か否かということですと東京の国立西洋美術館の前庭にあるロダンの考える人は本物です。
彫刻の「本物」というのは絵画の本物とは意味合いが違うこと。「本物」は1体だけではないということを知りました。
さいごに
コピーではなく本物は1体だけではない、ちょっと印刷と似ていますね。。。
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