植村明美
東京の朝のラッシュというのは世界でも類をみないものではないかと思う。
時々、乗車率200%を誇る朝の東西線のホームで車輪付きの大きなトランクを押す外国人の旅行者が、電車のあまりの混雑ぶりに驚いている様子を目撃するが、こちらとしては何故この時間を避けて利用しないのかと思ったりしていた。しかし、他の国や都市ではあれほどの混雑というのはあり得ないだろうから仕方あるまい。
東京五輪まであと1年となったこの夏、都心部では来年の予行演習として色々な試みがされている。
道路の交通規制があり、宅配便の集配もいつもより1時間前倒しになるという知らせがあったと思っていたところテレワーク・デイズなる取組みがされることを知った。
五輪中、様々な競技が開催される施設の集まる場所へのアクセスを考えると新木場駅などが通常と比べ大変な混雑を起こすと予想されている。
外国からの旅行者も含めた観戦者と通勤者が一度に移動するとなるとただの混雑どころではなく、危険な状態となる。
それを少しでも回避するため、特に開会式の行われる7月24日を中心として企業に積極的にテレワークを実施するよう国が呼び掛けているのだ。
そして、五輪開催をきっかけに、混雑回避というだけでなく、働き方の形そのものを考える機会にしようということなのだ。
この取組み、実は既に2017年から始まっている。2017年にテレワークデイが実施された際は7月24日1日だけだったが、昨年2018年はテレワーク・デイズとして数日間実施され、今年2019年もテレワーク・デイズとして7月24日をコアの日とした7月22日から9月6日までのおよそ1ヶ月間の実施となっている。
そもそもテレワークとは
tele=「離れた場所」とwork=「働く」を合わせた造語である。
在宅勤務のことでしょ? と思う方もいると思うが、在宅勤務はあくまでもテレワークに含まれる働き方のひとつの形態にすぎない。
在宅勤務は自宅利用型テレワークに位置づけられ、テレワークはその他にモバイルワーク、施設利用型テレワークに細分化される。
自宅利用型テレワーク
いわゆる在宅勤務のことで、臨時型で働く人と常時型で働く人がいる。各人のネット環境にバラつきがあるため、整えるには会社の負担が大きい、オン・オフの区切りをつけにくい、孤立感が生まれるなどの課題点がある。
モバイルワーク
移動中や気分を切り替えて仕事をしたい時、例えばカフェであったり新幹線の座席だったりという場所でパソコンやスマートフォンなどでネット環境を利用して仕事をする。
施設利用型テレワーク
サテライトオフィス型とも言われるように、本社のオフィスとは別に近隣や郊外、または地方に簡単な施設の小さなオフィスを作り、そこで働くようにすること。
働く人にとっては本社のある場所まで出て行く必要がなく、住居の近くで働ける。在宅ではないので孤独感はない、通勤時間も減るといった良い点があり、雇用する側にとっては都心部出なくて良い、必要最低限の準備しかないオフィスのため、経費の削減に繋がる。
グッドクロスもテレワークデイズ2019に参加!
総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、内閣官房、内閣府が関係団体および東京都と連携し、既に2017年より2020東京大会の開会式のある7月24日を「テレワーク・デイ」として運動してきましたが、その日を中心に働き方改革の7月22日から9月6日の1ヶ月間を「テレワーク・デイズ」と位置づけ、テレワークの一斉実施を推進する。
グッドクロスでは既に一部でテレワークを導入。
そのうちの1人、コールセンターに勤務する松下さんは現在、完全な在宅勤務で働いている。
コールセンターでテレワークを導入した経緯としては、ここ数年大型台風や大地震により稼働できない状況が発生する可能性もでてきたのと、台風や異常気象の発生により電車の運行制限が増えている為に遅延せざるを得ない人がいるという現実もある。
そこで24時間365日稼働するコールセンターの安定な稼働のためにBCP対策、少子高齢化、ライフワークバランスの実現に向けシステム面の構築を進めて来た。
テレワークは良い面が沢山ある半面、一人ぼっちで働いているという孤独感が生まれやすかったり、欠点はあり、どうしたら孤立感無く各人が仕事できるか、疎外感を感じることはないかが課題であった。
この点はまず、カメラ付きノートパソコンを使用することにより、管理側との連携をとり、今は稼働できる状況か、困っていないかなどを確認しあえるようにした。
将来的には、本部コールセンターの様子を逆に常時テレワーク中のスタッフに見えるようにしたり、更に相互の連帯感をもたせられるようにしたいと考えている。
また、グッドクロスには子育て中の女性社員も多く在籍している。普段は子供を保育園に預けているとしても、例えば風邪気味で預かってもらえないが仕事は詰まっているときなど、テレワークならなんとか乗り切ることができるかもしれない。
広報宣伝班の後藤班長は不定期ではあるが在宅勤務を選択している。
在宅勤務は子供が病気の時や名刺などの写真を撮影する際に限られてはいるが、テレワークの良い点を聞いてみた。
「グッドクロスではネット注文専業でビジネス名刺印刷所という屋号の名刺作成をしていますが、新作の名刺の写真などを撮影する時は三脚や撮影用のボックスカメラなどそれなりの機材を用意する必要があります。自宅にはそういった機材があるのですが、会社で撮影となるとそれを運ばなくてはなりません。が、テレワークなら自宅で撮影できるので重たい機材をわざわざ運ばなくて良い点がすごく便利で効率的だと思います。
また、子供が体調不良だと保育園に預けることができず、通常はそうすると親が仕事を休まなくてはならないと思うんですが、テレワークができれば、全てとはいかなくても作業を進められます。
会社にいる部下とはFBのメッセンジャーのチャット機能で連絡を取り合えば、出社しなくとも大体のことは解決できます」
短期的には来年2020年のオリンピック開催時の交通機関、特にラッシュ時の混雑を緩和することだと考えるが、長期的にはこの機会に働き方や働き手の意識が変わるきっかけとなること、それが今回の五輪のあと残される財産となるだろう。
1964年の東京大会開催時には高速道路や近代的な競技場などが後に残ったが、今回の大会では(勿論物質も残るのだけれど)物質では無い物も残そうということが言われている。働き方の形もそのひとつである。
会社で拘束されている時間のみが生産性を生みだすと考える時代は終わりつつあるのかもしれない。