TOP / 言葉 2019.09.12

俳句の世界 季語(季題)から見る美しい日本のことば「野分」

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台風15号が関東地方に凄まじい勢力のまま上陸しましたが、ものすごかったですね。

今回の台風は雨もさることながら風がすごくて、被害も強風によるものが多かったようです。

さて、今回から数回に渡り俳句についてご案内していきますが、季語(伝統俳句では季題という)には俳句の世界独特の言い方が色々と存在します。台風もそのひとつ。

台風のことを「台風」という事はあまりなく、通常は「野分(のわけ、のわき)」を使い、野を分けて吹く強い風、台風がもたらす風の様子をさします。

もともと日本語に「台風」という言葉そのものが無く、それまでは「野分」を使用していました。台風は英語のtyphoonからとったと言われていて、大正時代頃から使われるようになったようです。

野分」は、『源氏物語』五十四帖の巻名のひとつになっていたり、「枕草子」の第二百段の冒頭では「野分のまたの日こそ、いみじうあはれにをかしけれ」(台風の翌日というのは大変にしみじみと趣深い)と記されています。

芭蕉の有名な句のひとつに

芭蕉野分して盥に雨を聞く夜かな 松尾芭蕉

というのがあります。ここでいう芭蕉は作者本人のことではなく、芭蕉という名前(俳号)の由来にもなった庵の外に植えられている芭蕉というバナナに似た植物のことです。

「台風の風が激しく庭の芭蕉を揺らし、雨が打ちつけている。家の中では雨漏りがしていて盥(たらい)に落ちる雨の音を聞く、そんな夜であるなあ」

大いなるものが過ぎゆく野分かな 高浜虚子

虚子がこの句を作ったのは1934年9月21日。大きな被害をもたらした室戸台風が上陸した日であります。

句の意味は、人間の力が及ばないところのものが過ぎていったということを読んでいるのだと思われます。

野分」と同じように使われる季語に「秋出水」があります。出水というように台風などがもたらす雨で洪水などが起きることをいいます。

ただ「出水」というと、梅雨や集中豪雨などでの洪水のことを指しますが、「秋出水」になると台風での水害を指し、秋の季語となります。

台風の後の様子を表現する場合は「野分あと」「野分すぎ」などと言います。

野分あと松のにほひのしづまれる  山口誓子

その他、秋の季語と言えば代表的なものは「月」でしょう。お月さまは1年中出ているものですが、俳句で「月」といえば秋の月のことを指し、「名月」といえば旧暦8月15日の月のことを言います。

名月をとつてくれろと泣く子かな 小林一茶

名月や池をめぐりて夜もすがら 松尾芭蕉

月の呼び方について詳しく書いている記事はこちら

また「星月夜」は月の出ていない夜。けれども天気が悪くて月が無いわけではない。新月で、月明かりは無いが空は晴れており、月の光が無い為にあまたの星が月の光る夜のように明るくまたたいているさまであります。

秋の季語で他にも面白いなと思うものに「竹の春」というのがあります。

「春」とついていますが「竹の春」は秋の季語です。竹はタケノコの出る時期になると、竹そのものはタケノコに栄養を取られる為か衰えていますが、秋になると勢いを取り戻し、葉も青々と茂ります。それで、秋の竹の様子を「竹の春」というのです。

おのが葉に月おぼろなり竹の春 蕪村

同じような意味で夏の季語に「麦の秋」があります。作物が実るのは秋が大半ではありますが麦は初夏に穂をつけ、収穫を待つまでの間、風に波打つ美しい光景を作り出します。

次回も引き続き俳句の季語についてお伝えいたします。

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