内田絵梨
言葉は生き物。そんな風に例えられるように、時代によって言葉は少しずつ変化しています。
1991年のNHKの調査では「声を荒らげる(あららげる)」と言う人より、「声を荒げる(あらげる)」と言う人の方が多いという結果が得られたとか。今では放送業界でも、本来の表現である「あららげる」とあわせて、「あらげる」を使うことも認められるようになっています。
こうした一般化した読みを「慣用読み」と言います。
今回はそんな慣用読みをいくつかご紹介します。
情緒(じょうちょ)
「じょうしょ」の慣用読みです。意味は物事に触れて起こるさまざまの微妙な感情です。
異国情緒や情緒不安定など、既に「じょうちょ」の方が一般的ですね。
「緒」という漢字は音読みが「しょ」、訓読みが「お」「いとぐち」です。由緒(ゆいしょ)や鼻緒(はなお)などの漢字を見ると、読みがすっと出てくるかと思います。この音読みの「しょ」の慣用読みが「ちょ」です。
たとえば、端緒(たんしょ)を「たんちょ」、緒戦(しょせん)を「ちょせん」と読んでも間違いではありません。
攪拌(かくはん)
「こうはん」の慣用読みです。意味はかき回すこと。
料理番組などを見ても、「卵を攪拌(かくはん)してください」という指示が飛ぶなど、「かくはん」の方が浸透しています。
ちなみに「情報を攪乱する」などの表現の「攪乱(かくらん)」も「こうらん」の慣用読みです。
なお、健康な人が珍しく病気になる「鬼のかくらん」は、全く別の漢字で「霍乱」と書くのでご注意を。霍乱は漢方で日射病を指す言葉です。
消耗(しょうもう)
「しょうこう」の慣用読みです。意味は使って減らすこと。
消耗戦や消耗品など、「しょうもう」の方が一般化しています。
元々の「耗」の音読みは「コウ」ですが、慣用音として「モウ」があります。
この慣用音とは俗に言う「百姓読み」のことで、漢字の編や旁(つくり)の音にひかれて誤って我流で読んでしまったものが定着した読みです。
たしかに旁(つくり)に「毛」の文字があると「モウ」と読んでしまいたくなりますよね。
捏造(ねつぞう)
「でつぞう」の慣用読みです。意味は事実でないことを事実のようにこしらえること。
「でつぞう」が本来の読みであると知らないひとは多いのではないでしょうか。少しぎょっとする響きですよね。
「捏」の音読みは「ネツ」と「デツ」で、訓読みは「こねる」です。料理の「つくね」と読む場合もあります。
音読みの「ネツ」は呉音で、「デツ」は漢音なので音として日本に伝わった時代が違うようです。
貪欲(どんよく)
「とんよく」、「たんよく」の慣用読みです。意味は欲の深いこと。
「貪」の音読みは「トン」と「タン」で、呉音が「トン」、漢音が「タン」です。
そして呉音の「トン」の慣用音が「ドン」です。
トンタントンタンと愉快な音が続いて説明が難しいですね……。
漢音が日本に伝わったのは7、8世紀の頃で、呉音は漢音導入以前に日本に定着していた発音だと言われています。
それを考慮すると呉音の方が古い発音です。
貪欲の読み方も古くは「とんよく」でした。それが「たんよく」と読まれるようになり、今では「どんよく」が一番浸透しています。
いかがでしたか?
慣用読みはまだまだたくさんあって面白いので、是非みなさんも調べてみてください。
おまけ
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参考:NHK放送文化研究所 / 漢字ペディア / デジタル大辞泉(小学館)