内田絵梨
心地よい秋風が吹き抜ける季節になりました。
読書の秋、スポーツの秋、芸術の秋……。色々なことをするのに最適な季節、秋。
今回はそんな○○の秋の由来についてのお話。
読書の秋
読書の秋の由来は、中国唐中期の文人・韓愈(かんゆ)の『符読書城南』という詩です。
原詩の一部とその書き下し文を見てみましょう。
時秋積雨霽
新涼入郊墟
燈火稍可親
簡編可卷舒時秋にして積雨(せきう)霽(は)れ
新涼(しんりょう)郊墟(こうきょ)に入(い)る
灯火(とうか)稍(ようや)く親しむべく、簡編(かんぺん)巻舒(けんじょ)すべし
意味はこんな感じです。
秋の長雨がすっきりと晴れわたったので、
初秋の涼しさの中、郊外に行き、
灯火のもとで書物を開くのがよい。
この『符読書城南』という漢詩自体は、韓愈が息子に学問の大切さを説き、今は秋で読書に最適なのだから勉強しなさいね、と励ますものです。
時代が変わっても親の言うことは変わりませんね。
この詩から「灯火親しむべし」という言葉が「涼しく夜の長い秋は、灯火の下で読書をするのに適している」という意味を持つようになります。
俳句でも「灯火親しむ」は秋の季語であり、夏目漱石の三四郎にも「そのうち与次郎の尻が次第に落ち付いて来て、燈火親しむべし抔(など)といふ漢語さへ借用して嬉しがる様になった」という文が出てきます。
昔はこの詩を知っていることが教養の内だったことが分かりますね。
一方で、読書の秋のイメージが一般に広まったのは読書週間が秋にあることからです。
読書週間は1947年(昭和22年)に、まだ戦火の傷痕がいたるところに残っているなかで「読書の力によって、平和な文化国家を作ろう」という決意のもと始まりました。
そして読書週間は11月3日の文化の日を中心にした2週間(10月27日から11月9日)と決まっています。
11月3日は元々、明治節として明治天皇の誕生日による休日であったのですが、1948年(昭和23年)から文化の日と名を改められました。
スポーツの秋
スポーツの秋の由来の有力な説は、「1964年(昭和39年)10月10日に東京オリンピックの開会式が行われたから」というもの。
開会式当日は前日の雨が嘘のような、抜けるような青空で「オリンピック晴れ」と呼ばれたそうです。
このことから10月10日は「晴れの特異日(その前後の日と比べて偶然とは思われない程晴れる確率が高い日)」であるために東京オリンピックの開会日に選ばれたという説が生まれるほど。
日本人の心に強く残った東京オリンピックを記念して、10月10日は1966年(昭和41年)から体育の日として国民の祝日となりました。
そして、体育の日は2000年(平成12年)からはハッピーマンデー制度の適用によって、10月の第2月曜日に固定され、2回目の東京オリンピック開催年の2020年(令和2年)よりスポーツの日と名を改めました。
なお、2020年限定でスポーツの日が7月24日に移動したことを覚えている方もいるのでは?
2020年7月24日はオリンピックの開会式でした。
やはり、東京オリンピックの開会式が予定されている日はスポーツの日でないと……! という意図があったようです。
並々ならぬこだわりですね。
ちなみに先ほど紹介した文化の日(11月3日)は正真正銘「晴れの特異日」とされています。
芸術の秋
芸術の秋のイメージがついたのは、1918年(大正7年)に発行された『新潮』という雑誌で「美術の秋」という言葉が使用されたことがきっかけだと言われています。
また、日展や二科展、院展も秋に開催され、まさに芸術のイベントが最も盛んになる季節です。
芸術の秋は創作することはもちろん、芸術に触れること、鑑賞することもおすすめだと言えるでしょう。
アメリカやヨーロッパなどではそもそも夏が劇場のオフ・シーズンで、長い夏休みが明けて9月にシーズンがはじまります。
ファンにとっては待ちに待った瞬間が毎年秋に訪れるのです。
食欲の秋
食欲の秋の由来は諸説ありますが、秋の味覚である秋刀魚に栗にさつまいも、梨に、きのこに、柿、りんご。何より私たちの主食の米が旬を迎え、食欲が増すことからそう呼ばれだしたのだとか。
実は秋に食欲が増すことは、科学的にも証明されています。
私たちの体の中には「幸せホルモン」の名で知られるセトロニンがあります。このセトロニンは、満腹感を与えて食欲を抑える働きがあります。セトロニンは、日光に当たる時間と比例しており、陽の光を浴びる時間が短いと減り、長ければ増えるのだとか。
秋は日増しに日照時間が短くなり、夏に比べて太陽にあたる時間が減ることで、セトロニンの分泌が減り、結果食欲が増すと言うのです。
また、秋は気温が下がる季節でもあります。気温が下がると、体は体温を温かく保つために基礎代謝を上げます。体を温める分エネルギーを使うので、その消費したエネルギー分を補うために食欲がわくのです。
難しいことは置いておいても、秋は過ごしやすい季節なので、夏バテが解消されて食欲が復活するという説明もできますね。
様々な秋があり、色々な由来がありますが、皆さまは今年はどんな秋を過ごされる予定でしょうか?
おまけ
当社はテルトルというコールセンターも運用しており、24時間365日対応しています。
正しい言葉の使い方を意識し、日々受電を行っています。
ご興味のある方はぜひ、テルトルのサイトもご覧ください。
参考:公益社団法人読書推進運動協議会 / 福島みんなのNEWS 今日の四字熟語・故事成語 / 晴れの特異日を選んだという「東京オリンピック10月10日」の神話 / 内閣府 「国民の祝日について」 / なっとく! おもしろ由来辞典 / macaroni / 素材力だし