内田絵梨
「御」の読み方で「ご」と読むのか「お」と読むのか戸惑ったことはありませんか?
今回は「御」の読み方についてです。
「御」の歴史
いづれの御時(おほんとき)にか。 女御(にようご)、更衣(かうい)あまたさぶらひ給ひけるなかに、いとやんごとなき際(きは)にはあらぬがすぐれて時めき給ふありけり。
源氏物語『桐壺』の書き出しをそらんじている方もいらっしゃるのではないでしょうか。ここで登場する「御」の読みは現代の発音の表記にすると「おおん」となります。
さて、この「おほん」。元は「大御」と書いて「おほみ(おおみ)」と読んでいました。御を「み」と読むのは現代でも「御心(みこころ)」などに残っていますね。
「大」も「御」も、どちらか一方だけで敬語表現足り得ますが、二つを重ねることで最上級の敬語接頭辞となったのです。
口語として使われるうちに「おほみ」が「おほん」と訛り、「おほん」が縮まって「おん」に、そして「おん」が更に縮まって「お」と読まれるようになりました。
ちなみに、「御の字」という言葉は江戸時代に遊里で用いられた言葉だったため「おんのじ」と言う読みが残っています。
和語には「お」
御の読み方のうち「お」は昔から日本で使われていた和語に由来するものであることが分かりました。
こうした経緯から御を「お」と読む場合は、和語、つまり訓読みをする言葉の前に来ていることが多いです。
また、同じ和語繋がりでいうと御を「み」と読むのは、神や皇室に関わる言葉につくときです。省略に省略を重ねた和語である「お」より、古語から音の変わらない「み」の方が古雅であるからでしょうか。
「御心」を「おこころ」と読むか「みこころ」と読むかは場合によって使い分けなくてはなりませんね。
余談ではありますが、「おみあし」や「おみおつけ」は漢字で書くと「御御足」、「御御御付け」です。
漢語には「ご」
一方、「ご」の読みは漢語の呉音に由来するため、音読みをする言葉の前に来ることが多いです。
「御」という漢字の本来の意味は「馬をうまく操る」です。「馬をうまく操る」ということは、コントロール・制御するということ。ひいては、支配する・治めるといった意味になり、皇帝に関する物事に「御」を付けることで敬意を表す表現となりました。
「御所」や「御恩と奉公」などで考えると分かりやすいです。
例外
ただし、原則から外れる言葉も数多くあります。
そういった言葉は、日常的によく使われているもので和語とあまり変わらない使われ方をするため、日本語を母語とする人が違和感を覚えることは稀でしょう。
「御」の読み方を見ていきましたが、多用しすぎるのはかえって慇懃無礼になってしまいます。
ほどよい加減で使いたいですね。