内田絵梨
本日は節分ですね。明日は立春。春も間近です。
さて、節分と言えば豆まき! 国民が寄ってたかって「鬼は外、福は内」と叫びながら豆をまくというなかなかクレイジーな行事ですが、その由来は何なのでしょう?
豆まきの由来
季節の変わり目にご用心
昔から季節の変わり目には邪気(鬼)が生じると考えられてきました。
確かに、現代でもこの時期は風邪が流行し、体調を崩す人が後を立ちません。今でこそ、乾燥した空気や激しい寒暖差によって健康を損ねやすくなることが解明されていますが、昔は分からないことは全て鬼の仕業。
対抗手段として魔を払うのに躍起になるのも仕方のないことでしょう。
季節の変わり目である節分には、悪霊払いの行事が行われるようになりました。豆まきの元祖は、追儺(ついな)と呼ばれる宮中の行事であり、悪霊払いの一大イベント! 皆大まじめに取り組んでいました。と、いうのも旧暦でいうと節分は大みそかにあたります。来年の健康を祈る意味でも大事な行事だったのですね。
しかしながら、豆まきがクレイジーだとすると追儺はカオスです。
盾と矛を持ち、黄金の4つ目の恐ろしい面をつけた「方相氏」と呼ばれる役人が、20人ほどの童子や役人を引き連れ「鬼やらい、鬼やらい」と叫び回り、その護衛に桃の弦に葦の矢を持った公家の偉い人たちが続きます。天皇の生活の場の出入りを許されている天上人は、でんでん太鼓を打ち鳴らして厄払い。
これを大みそかの夜8時頃に行うのですから、もう訳が分かりません。
電気もない時代ですからほの暗い明りの中で行われたのでしょう。
怖い! もはやこの行事、人間の方が怖い!
そして、「暗がりで見る方相氏こそ鬼のように見えるのでは」というツッコミを入れたあなた、間違っていません。
鬼を追い払う側筆頭のはずの方相氏は、平安時代末期には追い払われる側になってしまいました。今でいう鬼役の人ですね。つらい。
豆打ち
さて、室町時代中期に編纂された辞典『壒嚢鈔』(あいのうしょう)には、日本で最初に豆まきを行ったのは宇多天皇の御世であると書かれています。
宇多天皇といえば、黒猫好きのツンデレ日記を書いていたりとなかなか面白いお方なのですが話がそれるので割愛しまして、天神様でおなじみの菅原道真公が生きた時代です。
『壒嚢鈔』で取り上げられているエピソードはこんな感じです。
※内田訳です。専門家ではないので、ところどころ間違っているかもしれません。
節分ノ夜大豆ヲ打事ハ何ノ因縁ソ、是更ニ慥ナル本説ヲ不見。由來ヲ云人ナシ、但シ或古記ノ中ニ云、節分ノ夜大豆ヲ打事ハ、宇多ノ天皇ヨリ始レリ、鞍馬ノ奧僧正ヵ谷美曾路池ノ端ノ方丈ノ穴ニ住ケル藍婆揔主ト云二頭ノ鬼神、共ニ出テ都へ亂レ入ントシケルヲ、毘沙門ノ御示現ニ依テ、彼寺ノ別當奏シ申子細アリ、主上聞召スニ、明法道ニ宣旨アリテ。七人博士ヲ集テ、七々四十九家ノ物ヲ取テ、方丈ノ穴ヲ封ジ塞デ、三斛三斗ノ大豆ヲ熬テ鬼ノ目ヲ打ハ、十六ノ眼ヲ打盲テ、抱ヘテ歸ルベシ、又聞鼻ト云鬼、人ヲ喰ントスルヲバ、䱝ヲ炙串ト名付テ。家家ノ門ニ指ベシ、然ラバ鬼ハ人ヲ不可取ト云御示現也ト云々
節分の夜に豆まきをするのはどういったいわれがあるのでしょうか。これといって確かな説はありませんし、由来を知っている人もいません。しかし、ある記録の中に、節分の夜に豆まきをするのは宇多天皇の御世に始まったというものがあります。
鞍馬山の奥深く、僧正谷美曽路池のそばの約3メートル四方の穴に藍婆と揔主という二頭の鬼神が住んでいました。鬼は都に押し入ろうと計画していましたが、毘沙門天のお告げによって鞍馬寺の偉いお坊様がその仔細を知り、主上(天皇)にお伝えしました。企みをお聞きになった主上は、法律と刑罰を司る機関に宣旨を出します。
7人の陰陽博士を集め対策が練られたことには、それに連なる49家の人を用いて鬼の棲家を祈祷で塞ぎ、3合3斗の炒り大豆で鬼の目を打つというもの。鬼は16個の目を盲いて逃げ帰ったということです。
また、毘沙門天のお告げにはこのようなものもありました。「聞鼻という悪鬼が人を食べようとしたならば、鰯を「炙串」と名づけて家々の門に刺しなさい。そうすれば鬼は人をさらうことはないでしょう。」
元の文を見れば分かるとおり、豆まきは、以前は豆打ちと言っていました。
豆まきより全力投球な印象を受けますね。
なぜ豆なのか
皆さんが思い浮かべる鬼とはどような姿形をしているでしょうか。
もじゃもじゃの体毛に赤や青、緑の皮膚。筋骨は隆々として形相は恐ろしく、虎のパンツに牛の角。釘バットより重く、殺傷能力の高そうな金棒をぶんぶん振り回す人外属性てんこ盛りの異形といったところではないですか。
間違っても『うる星やつら』のラムちゃんのようなセクシーな鬼ではないかと思います。(ラムちゃんだったらむしろウェルカムですよね!)
そんな恐ろしい鬼に対抗する手段が豆だなんてあまりに無謀すぎる! 縛りプレイもいいところです。昔の人はなぜ豆で鬼を追い払えると思ったのでしょうか。
古来、日本では穀物に生命力と魔よけの呪力が備わっていると考えられていました。確かに穀物は、地に植えれば芽吹き、食せば人間に活力を与え、病すら克服するすばらしい力を持っています。
数ある穀物の中でも豆が選ばれたのは、魔を滅する(魔滅)という語呂合わせと、先ほど紹介した魔の目を打つ(魔目)語呂合わせから来ています。
また、豆まきに使われる豆は炒った大豆です。魔の目を射る(炒り豆)という語呂も合わせ持っています。
炒った豆は芽吹くことはありませんし、外に投げても安心。語呂も縁起が良くて一石二鳥! よく考えられています。
以上をまとめると、豆まきの豆は鬼の大きな体に当てるというより、目を狙い打ちする道具だったことが分かります。
鬼の体がいくら丈夫でも、目を鍛えることはできません。非力な私たちにできることは、弱点を射ることのみ!
とはいえ、鬼役の人がいる豆まきでは目は狙わないようにしましょう。
鬼役がいない豆まきで、想像力で鬼を思い描いて抜群のコントロールを発揮してください!