植村明美
HUMORABO
夫婦でユニットを組んだきっかけ
現在、弊社活版印刷の紙成屋がCOFFEE PAPER PRESS(CPP)としてユニットを組み活動をしていますが、このCPPのP(PAPER)として一緒に活動しているHUMORABOのお二人。前川亜希子さん、前川雄一さん御夫婦であります。
それぞれデザイナーとして違う分野で活躍されていたお二人が、どうしてユニットを組み活動をするようになったのか。どんな活動をなさっているのか。
インタビューしました。
――元々は其々別にお仕事されていたんですよね。どういうきっかけでご夫婦がユニットを組んで一緒に活動しようということになったんでしょうか。
何で一緒にやりだしたんだっけ?(前川亜季子さん)
元々ソロでもやっていたし、一緒にやっていた部分もあって、自然な流れで……ふんわり(笑) (前川雄一さん)
――その「自然な流れでふんわり」というのは、まさに御夫婦ならではの良さですね。他人様だとそうはいかないですよね。収益の配分などお金のこととか、契約のこととか。
それは確かにそうですね。
エイブルアート・カンパニーという団体があるんですが、障害のあるアーティストの作品をデータ化して著作権管理し、企業やブランドなどとの仲介をして仕事づくりをしているんですね。
そこに僕らの後輩が働いてまして、商業施設の依頼で期間限定のプロモーションショップをすることになった。でも、何をしたらいいか全くわからないということで、お手伝いをすることになって。それが初めて障害者のかたとアートというもので繋がりはじめたきっかけです。
僕はビジュアルの担当っていうかポスターを作るとか。あっこさんは取り扱うもののディレクションだとか。
段々とそういう風に役割が確立していきましたが、最初は皆一緒に……障害者アートを商品として売るということまでにしているところは未だ殆どなくて、手探りでやりました。
その後、まず奥さんがフリーになって、その翌年僕が会社辞めてフリーになって、そのタイミングで今までやれてこなかったこともやろうよ、って。
紙成屋との出会い
――弊社の紙成屋とは活版TOKYOで知り合われたと聞いています。
最初は熊谷さんが来てくれたんですよね。
そう。すごい憶えてますよ。自分達は紙を販売していて、紙成屋さんはテキン(手押しの活版印刷機)のワークショップをしていた。熊谷さんがこの紙持ってきてくれてね。「ここで買った紙に活版で印刷してみましたよー」って。
それが、綴りが間違ってるんですよね。今では思い出の。紙なりゃ~(笑)KAMINARYA。
あらまあ! ほんとだ。KAMINARIYAでなくKAMINARYAになっています。
しかもこれ、NOZOMI PAPER®の裏に印刷しちゃってるんですよ。紙には裏表あるでしょう?
そのあと、(広報宣伝の)田中さんが連絡くれたんですよね。酒ペーパーが作れないかってことで。
で、その後、珈琲のイベントに出店するので、珈琲を使った何かができないかってことだったので色々一緒に考えていくうちに、NOZOMI PAPER®をコーヒーのデガラシで染めたコーヒーペーパーが出来上がったんです。栞に仕立ててね。
とにかく厚くっていう意向で。ノゾミ史上最高に厚く作った。
――このCOFFEE PAPERはJaGra(一般社団法人日本グラフィックサービス工業会)で、厚生労働大臣賞を受賞することになります。
手漉きの和紙は、薄くて綺麗なコピー用紙に近付けたようなものが上質みたいになってしまっていて、厚くてごつごつしたものはダメみたいになっていた。
ORGAN活版印刷室さんというところから洋服のタグの依頼があって、それが外からの依頼でオリジナルサイズの紙を作った最初です。
そして、紙成屋さんがきっかけで、印刷屋さんとのお付き合いができて、1000枚とかっていう単位で発注してもらったのも初めての経験でした。正直ノゾミさんにそんな数を請け負う力があると思っていなかった。最初は様子を見ながら、リハビリみたいな感じで始めました。
でも、それをこなせるようになってきたことで、ノゾミの人達にも職人意識みたいなものが芽生えてきてますよね。
実は、このインタビューをしたのは会社にCPPのメンバーとしてHUMORABOさんがいらしてくださった日。当日はCPPのC、COFFEEのTool do coffeeさんが珈琲を淹れてくださったり、NOZOMI PAPER® FACTORYのTシャツの試着販売もあり、楽しいひとときでした。
こちらの写真はNOZOMIでTシャツを作ることになった経緯や意味などを説明してくださっているところです。
南三陸ののぞみ作業所は、2011年の東日本大震災において被災し、現在も仮の建物での作業を余儀なくされている。
Tシャツの売上代金3000円のうち1000円は、新しい作業所を建てる為の費用の1部として寄付にあてられる。
NOZOMIさんで作ったモアイの絵のキャラクターがあるんですが、当初そのデザインでTシャツ作りたいというのがNOZOMIさんの考えだったんです。ただ、僕らは単純にキャラクターをつけた商品ではなく、その先も見たものを作りましょうということで、このNOZOMI Factory Tシャツのデザインが生まれたんです。
「福祉とあそぶ」
――HUMORABOさんは「福祉とあそぶ」というのをコンセプトに掲げてらっしゃいますよね。
お互いにやりたいことをやって、できるものを探そうよ。と思っています。福祉に対しては何かを分けてもらい、与えて貰っていると思っています。
元々は私たちが福祉に関わるきっかけとなった、HUMANとHUMORを掛け合わせた造語:HUMORA(ユーモラ)というイベント名があり、そこにラボ(実験室)を合わせてHUMORABOとしました。
RABOは本来はLABOなんです。その失敗感ていうか、間違っているのも受け入れるっていう意味もあるし、人の面白みに向き合って認めるっていう。それが福祉の考え方に繋がると思っています。
福祉と関わるようになって、豊かさってどういうことかって気付かされた気がします。福祉というのは、老人や障害のある人のためではなくて本来は万人の幸せのためにあるものなんです。
東日本の大震災を東京という距離感の中で体験したことで、今日1日をどう生きるかってことを考えるきっかけにもなり、僕の発想の転換期であったとも思います。
その答えが福祉の中にあるのかなあとか。
今現在、大抵の人にとって福祉は他人事なんです。でも、福祉が万人の幸せという概念が広がれば、違ってくるんじゃないかと思います。
結局福祉と向き合うことで自分の幸せとも向き合うことができると思うんですよね。
障害者は健常者のことを「健常者」とは思っていなくて、対「あなた」と思っている。僕はどっちかっていうと障害の有る無しよりも男女の差の方が大きいんじゃないかと思ったりします。
――福祉に関わる御夫婦がそれを言うと、深いですね。
今後の展望
――今後の展望をお聞かせください。
今回、代官山蔦屋で展開している商品は、HUMORABOコラボとHUMORABOセレクトの2つ。半々くらいの割合なんですが、その半分ももっとHUMORABOコラボで埋めていければいいなとは思っています。
今月(2017年10月)いっぱい、あの代官山蔦屋のイベントとしてHUMORABOが福祉作業所と共に制作した商品と、お二人の目線でセレクトした商品が置かれている。
そもそも福祉と関わる上で、お金には今のところそんなになっていないし、それでいいと思っています。けれど、それが×10とか100になれば、そうではないかなと。
NOZOMI PAPER®はもう商標登録もとっています。そして、全国で紙漉きをしている施設もたくさんあるので、NOZOMI PAPER®の名前で、NOZOMIブランドとしてそういう所もNOZOMIさんと同じクォリティで作れるようになれば、フランチャイズっていうか、NOZOMIさん1か所では作りきれないものを作っていけるんじゃないかなと思っています。
あとは、最近NOZOMIの絵で、他の施設でキーホルダーを作ったんですね。1か所の施設では得意不得意あってできないことも、他とコラボすることで色々なことができる。
自分たちのところで完結しないで、色々なところと一緒にやれば無限に広がると思います。
出来る事と出来る事でやりたいことをやればいい。向いてる方向が同じなら全く同じでなくてもお互いにエネルギーが合わさったときに大きなエネルギーになると思っています。
今、それを実現しているのがCPPじゃないかなと。この流れにのっていきたいと思います。
それから、NOZOMIファクトリーのTシャツは、サポーターシステムにしたくて、単にTシャツ買ってくれてありがとうではなくて、買ってくれた方に紙漉き体験していただくとか。
Tシャツの価格3000円のうち1000円は作業所への寄付になっているんですが、それをNOZOMIさんとしても有難い、けれど有難いで終わるのではなくて何かしたい、と。そのシステムをきちんと作りたい。
「かわいそう」というのではなくて「面白そう!」と思っていただけたらいいなと思います。
そしてこんな素敵なものがあるんですよ。これは障害のある方が作っているんです、というのを知ってほしくて。でも、それをどこまで言うかっていうのもあります……。
ぼくはそれは言っていいと思うんだよね。
自分たちはこうやって2つの目線があるのが売りです。先のことを優先して見て行動に移してしまう自分がけっつまづかないようにしてくれてるのは奥さんのおかげだなと、思っています。
ええ、まあ(笑)
感謝してるんだけど、それが上手く伝わらないんだよなあ。
ちゃんとわかってますよ。そのわかってるのもね、なかなか伝わらない。
――それが前川さんのいう、障害の有無より男女の差の方が大きいってやつなのかもしれませんね(笑)
HUMORABO
前川雄一( mu )と亜希子( ma )による夫婦デザインユニット。
「 福祉とあそぶ 」をテーマに、デザイナー夫婦ならではの二つの視点で、社会と福祉の楽しく新しい関係を探ります。
2007年のエイブルアートカンパニーとの出会いをきっかけに、障害のある人が関わる商品を集めたお店 HUMORAのディレクションを担当。福祉商品の企画・開発を通じてその魅力と課題を実感。
デザイン×福祉のさらなる可能性を探るため、2015年よりユニットとして活動を開始しました。
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