内田絵梨
留学のすすめ!二回目なのだが、そもそも私の留学経験について少しも触れていなかった。
こいつぁうっかりだ!!
と、いっても大したことはない。
俗に言う中二病をこじらせドイツ文学を読みふけった影響から大学でドイツ語を専攻し、1年間留学しただけである。
ご存知の通り、そんなに熱心な学生ではなかった。
留学して上がったスキルは相槌くらい。「まじで?」「やばい」を繰り返すだけだ。
この記事では、どの言語にも通ずるだろう語学留学の失敗を取り上げていくので、是非そんな悲しそうな顔をせず、笑いながら読んでいただきたい。
先生は魔女(☆ゝω・)b⌒☆
顔文字を使って見出しを目一杯かわいらしくしようと思ったのだが、「魔女」という文字がそれを許してくれなかった。恐るべし破壊力、魔女。
この魔女が今回の記事の主役である。
魔女は作文の先生だった。短く整えられた赤い髪に、世界最細を狙えるのではなかろうかという「への字」の眉、家では4匹の猫を飼っているということだった。
そんな彼女の言葉は簡潔で断定的。
「あんたは、典型的な、日本人、ね!」
これは私の作文を読んで、いくつかの質問をした後、魔女が発した言葉である。
これでもかというほど明確に1ワードずつ切った、悲しいまでに分かりやすいドイツ語だった。
そして、魔女が私に1年を通して課した課題がこれだ。
・文章は必ず筆記体でかくこと。
・辞書をなるべく使わないこと。
2つだけ。
1つ目の筆記体は、機能性を重視してのアドバイスだったのだと思う。聞いたことを素早く書けるし、筆記体が読めなくて困るという事態を避けることができる。
2つ目のアドバイスは、語学学習において最も重要な「使うスキル」を養うためのものだ。
典型的な日本人とは
魔女が私を「典型的な日本人」と言ったのには理由がある。会話能力と筆記能力のバランスが全くとれていなかったからだ。
聞くのも話すのもてんで駄目。それなのに、書いた文章は小さな間違いはあるものの、一定のレベルは満たしている。このちぐはぐさ。日本人。
まあ、そのような勉強を日本でしてきたのだから当然と言えば当然だ。
文法はある程度頭に入っているし、辞書を引けば少ない語彙を補える。書くスキルだけで言えばそれなりの能力は既に持っているのだ。
では、何が足りないか。
瞬発力と使える語彙力だ。
使える語彙力とは、「聞いて分かる・読んで分かる=理解できる語彙」ではなく、「書ける・話せる=自分から発信できる語彙」だ。
それらを鍛えるために、私は辞書の使用を制限された。
暗記パンをください
話しは少し逸れるが、日本では単語帳という優れた本が売られている。
一方、ドイツの一般的な本屋では、(日本語がマイナー言語だからかもしれないが)日本語の学習書籍は独和辞典くらいしか置いていない。
ドイツ人に単語帳はないのか尋ねたところ、「自分で作るしかない」という答えが返ってきた。カルチャーショックである。
それなのに、ドイツの日本語学習者の日本語レベルはとても高い。どのように学習しているのかみてみると、覚えた言葉はすぐ使い、すごい奴はアニメのセリフを丸暗記していた。
オタクここに極まれり。好きこそものの上手なれとはよく言ったものだ。
さて、日本には単語帳がある。一冊覚えれば、ある程度の文章が読めるようになる魔法の本だ。これを使えるレベルまで丸暗記すれば良いのではないか?
魔女の教え
まあ、それができなかったから私の留学はぱっとしなかったのだが、辞書の制限は割と有効な学習法だったように思う。
例えば日記を何も見ずに書く、書く、書く!(三日坊主で終わったが)
宿題の作文を何も見ずに書く、書く、書く!(とても幼稚な文ができあがり、結局辞書に頼ってしまったが)
辞書を引かずに友達と、話す、話す、話す!(語彙力不足でイラストの説明能力があがったが)
好きな歌詞を覚え、歌う、歌う、歌う!(会話で使ったら「そんな言葉どこで覚えたの?」と心配されたが)
留学をすれば、よっぽどのひきこもりでない限り、耳は鍛えられる。
しかし、外国語のシャワーは浴びるだけでは駄目だ。
頭上からかかるシャワーを口で受け止め、マーライオンするくらいの勢いでないと言語の習得は難しい。
魔女は良い作文を書くと、クラスの前で読み上げる機会をくれた。
自分が書いた筆記体が読めずに詰まり、魔女に助けてもらうということも何度かあったが、私はこの先生が大好きで、今でも気が向いたときに魔女の教えに従って言語学習をしている。