内田絵梨
夏の土用の丑の日にはスーパーにずらりとうなぎが並びますが、実はうなぎの旬は実は秋から冬にかけて。
かば焼きで使われる粉山椒が取れるのも秋なのです。
今回はそんな山椒にまつわるお話。
日本と山椒(さんしょう)
山椒は日本原産のミカン科の植物です。
幹、葉、花、実に至るまで全てに芳しい香りを持っていることから、古来より日本で香辛料や薬として使われており、縄文時代の遺跡からも山椒の実が出土するほど。
日本料理において山椒はとても身近な存在です。
そんな山椒の古名は「ハジカミ」。食べると辛くて「顔をしかめる」ところから名前が付いたとか。
中国から生姜が伝わってからは、生姜を呉のハジカミ、山椒を和のハジカミと言ったそうです。
すりこぎ
山椒の木はすりこぎ棒として古くから愛用されてきました。
それはなぜでしょうか?
山椒は年輪の密度が大変高く、驚くほど硬い木です。またその表皮はごつごつとしており、握りこんだ際は滑り止めの役割を果たします。
加えて、冷蔵庫のない時代には「山椒のすりこぎで食べ物をすりつぶすと食あたりを防ぐ」と言われていました。
これはすり鉢ですりこぎがほんのわずかに削れることで、山椒の解毒成分が食べ物に行き渡るためと言われています。
山椒の木で作ったすりこぎは、すり鉢に負けないほど硬く、持ちやすく、食あたりまで防ぐ素晴らしい調理器具だったのです。
木の芽
古来から「木の芽」といえば山椒の若芽を指しました。
その旬である春には、木の芽の鮮やかな緑は、焼き物や煮物、お吸い物の色どりに使われます。
また、酢味噌と木の芽と筍などの食材を和えた「木の芽和え」は春を感じる味覚です
さて、この「木の芽」。「きのめ」と読むのか「このめ」と読むのか。どちらが正しいのか悩んでしまいますが、これらはどちらも正しいようです。
一説によると、「きのめ」は様々な木の芽のことを言い、「このめ」は山椒の若葉のことを指すそうですが、今はその使い分けもあいまいだとか。
感覚としては「きのめ」の方が分かりやすく、「このめ」の方がなんだか雅なイメージを与えます。
花山椒
花山椒は黄色くて小さい山椒の花です。つぼみの状態で摘み取られ、お吸い物や佃煮などに使われたり、薬味として焼き魚と一緒に食べられます。
市場に出回ることはあまりない花山椒ですが、辛味が少なく、しかし香り高い性質で、料理の名脇役と言えるでしょう。
似た香辛料に「花椒(ホアジャオ)」がありますが、こちらは中国の山椒です。辛みの強い四川料理に欠かせないスパイスですが、花山椒と花椒は全く別のものなのでご注意を!
青山椒、実山椒
山椒は雌雄異株であるため実をつけるのは雌株だけです。
その実を青いうちに収穫したのが青山椒、実山椒です。山椒の状態の中でも最も香りと辛みが強く、6月頃に出回ります。
茹でて佃煮にしたり、ちりめんじゃこと和えたちりめん山椒は定番のご飯のお供です。
粉山椒
粉山椒はうなぎのかば焼きにかける香辛料。山椒の実は秋になると熟して皮が二つに割れます。
熟した実は硬くて食べられないため、粉山椒に使われるのは山椒の実の皮です。
みなさんがご存知のうなぎのかば焼きのアクセントであるあの香りは、山椒の皮の香りというう訳です。
辛皮(からか)
しびれるような辛さが魅力の珍味――辛皮は有馬の名産。
山椒の若い枝の皮を細かく刻んで佃煮にしたものです。
ご飯のお供にはもちろん、お酒のあてにも最適です。
実は有馬は実山椒を使った煮物が「有馬煮」と呼ばれるほどの山椒の名産地なのです。
幹、葉、花、実と私たちを楽しませてくれる山椒は、時々に形を変えて、四季ある日本の食卓を彩っているのですね。
参考:食材辞典 / さんち 工芸と探訪 / ウチダ和漢薬 歳時記