内田絵梨
新型コロナウイルスへの感染予防策としてグッドクロスでは毎日、検温を行っています。
出勤する場合は出勤時の体温を非接触型の体温計で計り、在宅勤務の場合は勤務前に検温を行って上司に報告することになっています。
皆様が働かれている会社でもそのような対策を取られている場合が多いのでは?
今回はそんな体温計に関するお話しです。
世界で初めての体温計
イタリアの偉大な学者の一人であるガリレオ・ガリレイ。
彼は気体の熱による膨張を利用して、温度を測定しようとした初めての人です。
そこで作られた温度計に触発されて、世界初の体温計が考案されたのが1609年のこと。(1612年説もあります)
ガリレオの友人でもあるイタリアの医学者サントーリオ・サントーリオによるものでした。
画像出典:first illustration of. From Commentaria in I Fen I libri canonis Avicenna, Venice, Sarcina, 1625. Santorio Santorio(1561-1636) devised three tyoes of thermometers.
世界初の体温計は、蛇行したガラス管の一方を球体に加工し、もう一方を水入りの容器に入れるといったもの。
球体を口に含むことで、体温の分だけガラス管内の空気が膨張し、管内の水位を押し下げるという仕組みです。
ガラス管には目盛りがつけられているため、押し下がった水位の度合いで体温を測っていました。
それまでは手のひらの感覚だけで体温をみていたというのですから、医学的に大きな一歩です。
サントーリオの体温計を使っていろいろな人たちの体温を測っていくうちに、どうやら正常な人間はいつも一定の体温であるということが分かってきました。
しかしながら、現在のように正確に「〇度」と体温が測定されるまでには、1世紀以上の年月を要しました。
温度の基準となる水の沸点と融点が発見され、定義されたのが18世紀になってからだったためです。
華氏と摂氏
温度には様々な表し方がありますが、私たちの生活において特に身近なものに「華氏」と「摂氏」があります。
華氏
華氏はドイツの物理学者ガブリエル・ファーレンハイトが1724年に提唱した温度の単位です。
ファーレンハイトは水銀温度計を発明したことでも有名です。
華氏の記号はファーレンハイト(Fahrenheit)にあやかって°Fで表されます。
水が氷になる凝固点を華氏32度(32°F)、水が沸騰する沸騰点を華氏212度(212°F)として、その間を180等分して華氏1度(1°F)を定義しています。
アメリカでは、温度の表記は華氏を採用しています。
ちなみに何故「華氏」と呼ぶのかというと、ファーレンハイトは中国語を「華倫海特」と書くからです。
華倫海特の頭の「華」に、人名に付ける接尾辞「氏」がくっついて「華氏」というわけです。
摂氏
摂氏はスウェーデンの天文学者アンデルス・セルシウスが1742年に考案したものに基づいた温度の単位です。
記号はセルシウス(Celsius)にあやかって℃で表します。
当初は水が氷になる凝固点を100度、水が沸騰する沸騰点を0度として、その間を100等分して1度を定義しました。
その後、1750年にセルシウスの同僚ストロェメルたちにより表記が変えられました。凝固点を摂氏0度(0℃)、沸騰点を摂氏100度(100℃)としたのです。
私たちに馴染みのある表し方ですね。
摂氏の由来はお察しの通り、セルシウスの中国音訳「摂爾修斯」の「摂」と、人名につける付ける接尾辞「氏」からきています。
水銀体温計
こうして温度を表すことができるようになり、1867年にはイギリスの医師トーマス・オルバットによって今の体温計のサイズに近い15cm程度の体温計が発明されました。
そして、翌年の1868年にはドイツの医師カール・エールレによって、温度計ではなく体温計という形で「水銀体温計」が考案されます。
温まると膨張するという水銀の性質を利用した体温計です。
ガラス管の中で膨張した水銀の目盛りを読み取る水銀体温計は、計測に5分から10分ほど時間がかかるものの、その正確性から現在も愛用している人が多くいます。
一方で、水銀体温計はガラス管が割れ水銀が漏れ出て人体に悪影響を及ぼす可能性も持ち合わせています。
このことから、今ではより安全な電子体温計の方が一般に利用されています。
42℃以上の目盛りがない理由
一般的な水銀体温計は、目盛りの上限が42℃になっています。
これは身体を構成するタンパク質の中に、42℃を超えると熱凝固するものがあるためです。
これ以上の熱になると意識障害を起こしたり、死に至ります。
ちなみにギネスブックに載っている『人間が死なずに出した最高体温』は46.5℃で、熱射病患者だったということです。
世界で一般的な計り方
日本で一般的な体温の計り方は、体温計を脇に挟む方法です。
この計測法は、公共の場所などで計りやすい点や、衛生面を保持しつつ多くの人が繰り返し利用できるのがメリットです。
一方で、しっかり脇に挟みこんでいなかったり、十分に脇の汗をふきとっていないと正確な数値に近づかない、というデメリットもあります。
そもそも何故脇の下で体温を計るのかというと、体に負担をかけずに簡単に検温できるからです。
人の体は部位によって温度が異なります。
手足や顔などは外気にさらされて外の気温の影響を受けやすいため不安定です。
逆に体の内部は臓器の働きを保つために一定の温度で安定しています。
その内部の温度が反映されやすい場所が脇、というわけです。
しかしながら、世界的にみると脇での計測は一般的ではありません。
口に入れて使用する舌下体温計や、直腸に挿入して検温する直腸体温計が主流なんだとか。
確かに、脇よりも口の中や直腸の方が体の内部の温度をより正確に計れますね。
ちなみに、この2つの計測方法は脇で計るよりも高めの体温になることが特徴です。
電子体温計でより正確に体温を計る方法
ごく短時間で体温を計測できる電子体温計。
実は多くが予測式であることをご存知ですか?
予測式はその名の通り、体温を予測して計る方法で、早いものは20秒ほどで検温できるすぐれものです。
しかしながら本来は脇をしっかり締めて、完全に温まった温度を計るのが正しい検温方法。
そして脇が完全に温まるまでに要する時間は約10分。
子どもや忙しい人だとそれだけじっと待っていられませんよね?
そこで、体温計の温まり具合から、脇が完全に温まったときの体温を予測するのが予測式体温計です。
実は予測式体温計は「ピピッ」と鳴った計測後も体温計を脇にはさみ続けると、ずっと体温を計測し続けてくれます。
中には10分ほどで再度「ピピッ」と音を発っするものも。
この2度目の検温完了音が、実測で計ったものになります。
10分以内に検温を知らせる電子体温計をお持ちの方は、ぜひぐっとこらえて10分ほど計測を続けてみてください。
最初の検温完了時から数値が変化しているか、2度目の検温完了音が聞こえるはずですよ。
参考:テルモ体温研究所 / ケアコラム 体調のバロメーター体温測定の歴史 / 養命酒 体温の雑学 / シチズン・システムズ株式会社 電子体温計に関するご質問 / 『人体のしくみとはたらき』著・澤口彰子、栗原久 / Ergebnisse der Inneren Medizin und Kinderheilkunde: Dreiunddreissigster Band