内田絵梨
感動の東京マラソンから早一週間。プロジェクトの立役者たちにインタビューを行いました。
あの日あの時、何を思い何を願ったのか。赤裸々に語った真実とはいかに……。
ランナー グッさんの場合
大会に挑むにあたって
――東京マラソン完走、おめでとうございます!
ありがとうございます!
なんとか、恥ずかしながら帰ってきました。
――いやいや、色々大変だったとは思うのですが、当日を迎えるまでに準備したことや気をつけていたことなどはありますか?
一番自分でびっくりしているのは、2月に入ってから3回くらいしかお酒を飲んでいないということですね(笑)。
特に、大会一週間前からは1滴も飲んでない!
生まれてこの方……は、言い過ぎだけど、成人してからは入院以外で飲まなかったことがないからね。
――すごい! じゃあ、近年稀に見る休肝日だったんですね!
そうそうそう。すごいよね。
よっぽど自信なかったんだろうね。
――(笑)
走る自信がなかったんですよ。
走ること自体は1989年くらいからフルマラソンを始めて、紆余曲折あって大会に出るのは2000年を機に辞めてしまって……。
――ということは、実に17年のブランクがあったんですね。
17年……いや、もっとですね。
フルマラソン自体は2000年より前に辞めちゃったから約20年くらい。
――当時と変わったことはありますか?
(笑)
そりゃあ、もうジジイになってますからね。
前のときは1キロを5分というのが目安で、フルマラソンになると1キロ6分のペースで走っていたんですよ。
ところが、6~7年前にジムに行って走ったら全然1キロ5分のスピードが出せなくなっていて「なんじゃこりゃ」と。
――では、今回の目標のタイムはどれくらいだったんですか?
いままではフルマラソンで5時間を切るのが当たり前だったんですね。
と、いうのも、5時間が制限時間の大会にしか出ていなかったから。
今回の東京マラソンの制限時間は7時間だったので、当初は「6時間で走れればいいかなぁ」と思っていたんです。
ところが、練習を重ねていく内に「5時間半でなんとかなるだろ!」と。腹の中では「5時間切れるだろ!」と(笑)。
――と、いうと走るペースは。
5時間切るということは、1キロ7分ペースで良いんですよ。
7分ペースなら4時間40分くらいで行けるはずなんで、多少遅れても5時間は切れるだろう、と。
だから、今回も練習自体は1キロ7分で練習してました。
目標ペースを1キロ8分に設定すると5時間ちょいかかっちゃうでしょ? 8分までは落ちないだろう、と。思ってたんだけどね(笑)。
案の定、アベレージは8分何秒だったかな。
↑東京マラソン激励会で乾杯 | ↑練習風景 |
2月26日の記憶
――当日、一番きつかったことは何ですか?
当日は24キロの看板を見るところまでは普通だったんですよ。「イケんじゃね?」と思ってました。
ところが、25キロを過ぎて、30キロが見える頃から「何か足がいつもと違うな」と。「今までのフルマラソンの足の痛みとは違うなあ」というのが来て。
以前、フルマラソンを走ったときも、腿に痛みなどはあったけど、走ろうと思えば走れる痛みだったんです。
今回の痛みは気力で走れない痛みで……。攣っちゃうし、痙攣しちゃうし。
――両足共に、だったんですか?
最初は右足から。
右足の腰辺りから「何だ、この重さは」というのが来て、それをかばって走る内に左が……。少しストレッチをすると紛れるんですがね。
日比谷交差点(30キロ地点)で「あれ?」と痛みが来て、ガードレールでストレッチをして、西新橋の交差点(31キロ地点)で「あれあれあれあれあれあれ?!!」と。
もう立っているのがやっとでした。足を動かせば動かすほど固まっていくんです。「これ、動かないじゃん」と。腰はもう治っているんですが、足が動かないんですよ。全然。
「ダメだ。ここでリタイアかなあ」本気でそう思いました。
――応援naviでは、グッさんは泉岳寺辺りで止まっていたことになっていましたが、本当は違ったのですね。
※応援naviは東京マラソンでも使われた、ランナー追跡アプリです。
そうです。実際に止まっていたのは新橋です。
そこで10分ほどしゃがんで治るのを待ちました。
やっと少し動けるようになったものの、また攣るかもしれないので早歩きで足を前に進めました。
走ると、キュッと踏み込むときに足を攣っちゃうんですよね。
なので、とにかく競歩のように――その辺をゆっくり走っている人たちよりは速く――前へ前へ。
――聞いているだけで痛いです。
もうすぐ40キロくらいになったときにまた攣り始めて。でも「もう絶対に止まりたくない。ここで止まったらダメだ」と。
時間的には間に合うことは分かっていたのでスピードを落としてとにかく進みました。
問題は最後の石畳です。「もう終わりだ」とホッとしたところに、平らではない地面。足を下ろすたびにピキピキピキピキ。心中は「ここで、攣らないでくれー!!」の一言です。
――ひぃ!
一箇所攣りそうになると、他の部位が庇うからか200メートルくらいでスーッと痛みが引いていくんです。ところが、また別のところがピキピキと……。ずっとその繰り返しで、「とにかくゴールまでたどり着こう」という気力で完走しました。
結局、自分の予測タイムより30~40分遅かったのかな?
本当は5時間半で、3時前にはゴールする予定だったんです。
――ゴールできたときはどんな気持ちだったんですか? やはり「やっと着いたー!」といった感じですか?
やっと着いたというよりは、悔しさでしたね。
普通なら、感動するんでしょうけど、すっごい悔しかったです。
「ああ、みっともねー!」と思って。
周りから見ている人はそうは見えないんでしょうけど、自分の中では自分がすごくみっともなくて、許せなかった。「何やってんだ、お前は!」という気持ちでいっぱいでした。
――今まではフルマラソンで5時間を切る記録しか取っていなかったわけですもんね。
周りには目標タイムを控えめに言っていたけど、自分の中では「できる!」と思っていたから。まして、お酒も抜いて、練習もしっかりしていたので「できる」って自信はあったんです。
それが、こんな結果になって自分の中ですんごい悔しくて。
ただまあ、帰ってこられたのはすごく嬉しかったです。
――ゴール後はどのような過ごし方をされましたか?
マクドナルドのチャリティーランナーにはブレイクルームというところが用意されていたのでそこに行きました。
着いた瞬間に、応援に来てくれた仲間がビールとナゲットを持ってきてくれて(笑)。
そこでは、マッサージなどのケアもしてもらえるのですが、そのときはもう足は痛くなかったので頼みませんでした。
と、いうのも、ゴール後に座りこんだときに本格的に足が攣ってしまって動けなくなったんです。すると、近くにいたおじさんがトレーナーと書かれた女性を呼んできてくれて。……スポーツトレーナーの方だったのかな? 救護所から来てくださった方で、AEDまで持ってきて(笑)。俺は、そこまで死にそうじゃない!
――(笑)
とにかくそのトレーナーの方がずっとマッサージをしてくれて。10分くらいだったかなあ? 本当に痛みが消えてすごく楽になりました。
――なるほど。結局、ブレイクルームではビールだけ飲んで解散したのですか?
いやいや、30分くらい過ごしたあと、皆が「もう帰るんでしょ?」と言うので「馬鹿! 何言ってんだ」と。「大森に行って宴会だ!」って。
――え?
他の仲間たちからも「まさか飲まないだろ?」という連絡が入っていたのですが「いや、やる!」と言って宴会を決行しました。
――ちなみに、何時くらいまで……。
18時過ぎくらいに大森に着いて、22時くらいまでは飲みましたね。
焼酎のボトルが3本空きました。「もう飲んでもいいし、食ってもいいんだ!」と。
――眠くはならないんですか? 走った後で。
眠くないですよ。走り終わった瞬間に元気になった!(笑)
――(笑)
馬鹿だよねえ。でも、それが楽しくてやってたんだもん。昔も。
走ってて何を思っていたかっていうと「ああ、もうすぐ酒飲める~」って。ずーっと。
「終わればビールが飲める~」「完走しなきゃビールが飲めない~」
↑チャリティグッズ | ↑ハイタッチをする余裕! |
これから……
――これからマラソンのイベントなどがあればまた走りたいと思いますか?
ほんっとうに悔しいからすぐにでもフルマラソンをやりたいけど、やめときます。
しばらくハーフマラソンくらいに出ようかと思っています。まずは4月頃ですかね。
――グッドクロスの他の面子はまた走らなくなっちゃいそうですが、グッさんは前向きですね。
僕も今までは、毎日のジョギングはやっていたけど、レースには全然出ていなくて。だから、今回は良いきっかけで。
グッドクロスで何回か出たじゃないですか! ハーフマラソンとかの大会に。
せっかくの機会だから、今後もできたら1月に1回か、2月に1回くらいはちゃんとした大会にでたいなあ、と思ったり。
あとは練習で月に1回最低20キロ走ってみたりとか気合をいれないといけないなあ、と。
――モチベーションに繋がったんですね。
そうですね。そういう意味では、すごく良いきっかけでしたね。この悔しさが。
すんなり5時間ちょっとくらいでゴールしてたらやってないと思います。満足しちゃって。
自分の描いた通りにゴールできたら「やればできるじゃん!」で終わり。
あと、自分なりに思う今回の敗因は、3万6千人という人が崩れなかったこと。
自分のペースが作れなかった。
前が詰まれば横に逃げて……その繰り返しなので、倍くらいの距離は走ってるんですよね。
それに、横に移動するたびに使う筋肉は違うじゃないですか。
調子のいいときに全然意識しないでそれをやっちゃって、後半に足に来ちゃったんだと思います。
――では、東京マラソンでなければ、また結果は違ったものになっていたかもしれませんね。
もうちょっと良かったと思いますね。
まあ、それは言い訳かもしれないですが(笑)。
自分のペースで自分のコースを、ずーっと淡々と走れたら、あんな攣り方はしなかった。
あと、人が多すぎて、給水も結構パスしちゃったんですよ。
それでも5キロ毎にはしていましたが、30キロ超えたくらいからのどが渇いて渇いてしょうがなくなりました。
――体が欲してるんですね。
完全に水分不足!
面白いのは、30キロ手前ぐらいでアンパンが食えたんですよ! アンパンとみかんを食って、沿道の人にスニッカーズをもらって!
あれから元気になったね。不思議なくらい力になった。
アンパンおいしかったよ~。
――今まで食べた中で一番?
うん。一番おいしかった!
スニッカーズも美味しかった。甘いけど。
体が欲してるんだね、甘いもの……というより、エネルギーを。
――大変な一日でしたね。
大変な一日だけど、面白かったぁ。
――何時くらいに起きたんですか?
起きたのは……。4時に起きてます。
――早っ!
7時に受付だったじゃないですか。
だから、6時に人と待ち合わせをして、新宿に行って。
マクドナルドのチャリティで走ったので、更衣室が新宿アイランドタワーだったんです。
そこでグッドクロスがお世話になっているマクドナルドの担当の方に写真を撮ってもらいました。
――来年の東京マラソンはまた
(食い気味に)でるよ! もし出られるならでるよ!
リベンジするよ、絶対。
――みんなで応募するかどうかの話がでておりまして(笑)。
もちろんですよ!
マクドナルドの方もありがたいことに、「来年以降もやりますので、是非またお声掛けします。」と言ってくださってるし。
一般応募がダメでも、チャリティ枠で走るよ、また!
――意欲満点ですね。本日はインタビューにお答えいただき、ありがとうございました。
↑ドナルドと | ↑完走おめでとうございます |
インタビューのあとに
いやあ。本当に面白かったー!
でも、加瀬ちゃん(まゆちゃん)本当によくがんばったよ!
――ほんとですよねー!
ね! 20キロ(お台場ハーフマラソン)とか出てるの見てて、「ダメかなあ?」と思ってたんだよね。あの倍だから。
――そうですね。
20キロ走りきれてなかったじゃん。この間も。
「最後歩いちゃった」とか言ってたから。
まあ、さすが、やっぱ若さだなあ。
若さと根性だなあ。
――(笑)
すばらしいよ。根性が。
たぶん、彼女も人生観変わってるんじゃない?
いろんな意味で。
――次にインタビューするので聞いてみますね。
相当変わってると思うよ。
だって、なかなか42キロなんて走るきっかけもないし、走ったことある人もそういないわけじゃん?
その内の一人に自分が入ったんだからさ。多少歩いたとしてもね。時間内でゴールできたわけだから。絶対に嬉しいと思うよ。
教え子(まゆちゃん)のゴールが我が事のように嬉しい河口コーチ(グッさん)なのでした。