植村明美
コロナ禍にテレワークとなったことで、これまでより朝の時間を有効活用できるようになりました。
朝のうちに調べものをしたり、ラジオで語学の勉強をしたり。
その他にも変わったこととしてはNHKの朝の連続テレビ小説を見るようになったことです。
これまではその時間帯は電車に乗っていましたが、通勤が無くなり、これまでよりかなり簡単になった身支度をした後に朝ご飯を食べながら一休み、時間の確認も兼ねて朝ドラを小学生の時以来見るようになりました。
現在は日本植物学の父、牧野富太郎博士の生涯を描く「らんまん」を放映中ですが、そのらんまんの中で主人公が自分自身の手で印刷をしたいということから、石版印刷の弟子入りをするという場面がありました。
この石版印刷とはいったいどういうものなのでしょうか。
印刷の種類というのは四大印刷と呼ばれることもありますが、凸版印刷、平版印刷、凹版印刷、孔版印刷の四方式があります。
それぞれ凸版印刷は活版印刷、平版印刷はオフセット印刷、凹版印刷はグラビア印刷、孔版印刷はスクリーン印刷と呼ばれています。
弊社紙成屋の活版印刷は金属などの活字の凸部分にインクをつけて印刷する方式ですが、金属の活字が発明されるまでは凸版印刷は木版を使っていました。
ドイツのグーテンベルクにより、20世紀最大の発明とも呼ばれる活版印刷がヨーロッパで誕生したのは、1440年のことです。
鉛を使った活字は丈夫で擦り減らず美しく一度に多くの印刷を可能とし、ワインを作るブドウ絞り機を応用した印刷機を使って聖書を印刷し、キリスト教の布教にも多大な影響を及ぼしました。
1513年にはドイツのグラーフが凹版印刷のエッチングを発明。
これは銅や亜鉛に溝を掘り、その全体にインクで覆った後、そのインクを拭います。
溝に入り込んだインクを紙に転写させることにより印刷するのが凹版印刷、エッチングです。
今回の話のねたとなる石版印刷の発明は偶然の産物だったようです。
1798年、ドイツのセネフィルダーという人が大理石を使う石版印刷を生み出しました。
当時クリーニング屋さんが使用していた大理石のテーブルにクレヨンで書かれたいたずら書きがあり、それを落とそうとしても水を弾いて落ちなかったところから発想したと言われているようです。
元々の発想としては綺麗に磨いた大理石に油性のもので絵や文字を描き、全体を水で濡らします。
油性で描かれた線は水を弾き、そうでないところには水が残ります。そこに今度は油性の絵具を流すと水と油は反発するため、水のところは絵の具を弾き、油性で書かれた線のところだけインクが乗り印刷できるという仕組みです。
その後18世紀の末期になって、ボヘミアのアロイス・ゼネフェルダーが大理石に代わり石灰石で石版印刷をする方法を完成させます。
石版は木版や銅版のように掘る作業が不要で、直接石に描くことで繊細な線も再現可能となりましたが、らんまんでもわかる通り、石版となる石灰石がとにかく重く高価なものでした。
そしていちいち表面を平らにするために磨かなくてはならないため、その作業が大変ですし、だんだんと石版が薄くなってしまうという欠点もありました。
この石版印刷から始まった平版印刷はその後も進化し、オフセット印刷という印刷の主流となる印刷技術として発展していくのでした。