内田絵梨
「先生、さようなら。みなさん、さようなら」
子どもの頃、帰りのあいさつで元気よく言っていた言葉です。
小学生に上がると日常生活で「さようなら」を使う頻度はぐっと減り、私が今、目にしたり耳にするのは、本のタイトルや歌、少し古い作品の登場人物のセリフにとどまります。
個人的に「さようなら」は「二度と会えない」感じを覚えるのですが、いかがでしょうか?
今回は、「さようなら」の語源と由来をご紹介します。
さようならの語源
まずは、「さようなら」を辞書で引いてみましょう。
さようなら【左様なら】さヤウ-
一、 (接)それなら。それでは。
二、 (感)<さようならば、これで別れましょうの意>別れのあいさつに用いる語。さよなら。
大辞泉よりさよう-なら サヤウ-
(感)別れるときのあいさつのことば。さよなら。
[語源]「然様(さよう)ならば(=それでは)これにて御免」のような言い方から。
明鏡国語辞典より
「別れるときのあいさつことば」という意味と共に、語源まで載っています。
接続語である「さようならば」の「ば」が略されてあいさつ言葉になったのですね。
大辞泉にあるように「さようなら」の接続語の意味は「それなら」「それでは」です。
「それなら、また明日」「それでは、お元気で」など、本来であれば、後に続く言葉が肝心の別れの言葉であるはずなのに、そちらを省略するのが日本語らしいといいますか……。
同一コミュニティにおける共通認識の上に成り立つ文化、空気を読む文化が色濃く出ている気がします。
しかも、類語例解辞典を紐解くと、「さようなら」の使い分けにこんな説明が載っています。
「さようなら」は、別れの挨拶として相手の身分や地位、年齢にかかわりなく一般的に広く使われる。「さよなら」ともいうが、この場合は目上には使わない。また、「ここでさようならしましょう」「いよいよ今日で独身生活ともさようならだ」のように、別れることの意でも用いる。
相手の身分や地位、年齢にかかわりなく広く使われる別れの挨拶の代表が「さようなら」なのです。
ワタシ、「さようなら」! 出身、接続語。後に続く言葉は空気を読んでね!
そういえば、こんな話を聞いたことがあります。
今から挙げるシチュエーションは絶対にあり得ないことですが、もし万が一、我々が天皇陛下とお食事を共にする機会があった場合。
目の前のお料理に、私はどうしてもお醤油がかけたい。でも、そのお醤油は陛下のごく近くにある。陛下にお取りいただくなんてあり得ない。そもそもなんとお声掛けして頼めばよいのか。
正解は、ごく小声で「お醤油……」とつぶやくこと。そして、自発的に気付いていただくこと。空気を読んでいただくこと。
敬語とはなんなのか考えさせられます。
さようなら、ごきげんよう
「さようなら」の元の形について、『日本のこころの教育』(境野勝悟著)には、
「こんにちは、お元気ですか?」
「はい、おかげさまで元気です」
「さようなら、ごきげんよう」
これが日本人のあいさつの基本なのである。
と、あります。
なんでも、江戸時代までは「さらば、ごきげんよろしう」や「さようなら、ごきげんよう」と全部を言っていたものが、明治以降、男性が「さようなら」、女性が「ごきげんよう」と言いわけるようになり、ついに昭和には、女性のほとんども「ごきげんよう」は言わないで、「さようなら」を言って別れるようになってしまったとか。
時代を経るごとに、一つのあいさつの言葉が分かれ、独立した言葉として使われるようになり、平成の今はその頻度が減っていってしまっている「さようなら」。
冒頭に私が挙げた「二度と会えない」感じは、もしかしたら繰り返し聞いた歌や、物語の中で使われるシチュエーションによって植え付けられてしまった印象なのかもしれません。
また、身分や地位、年齢に関係なく使える言葉だからこそ、敬語を使う際に似た心の距離感を覚えてしまい使い辛いのかなあ、とも。
「さよなら、またね!」など、後に言葉を付け加えると「会えない」感はぐっと和らぐので、これをきっかけに色々な言葉と組み合わせて使ってみたいと思います。
おまけのお話
別れの挨拶は「さようなら」だけではありませんよね?
個人的に気になった「さらば」と「あばよ」の由来もついでに調べてみました。
さらばの語源
「さらば」は「さようなら」よりも古い言葉です。
現在では「さらば、友よ!」など、たまにふざけて使うことがあったり、なかったり。
「さらば」の「さら」は、そのようだの意の動詞「さり(然り)」の未然形で、「ば」は仮定を表す接続助詞。
元は、「そうであるならば」という意味なので、「さようなら」と同じ由来を持つ言葉です。
あばよの語源
「あばよ」は別れ言葉の中でもかなり使う頻度が低い言葉です。
私はこの言葉に、負け犬感というか、小物感がただよう捨て台詞な印象を受けます。
なんででしょう? 笑
「あばよ」の語源は諸説あって、そのいくつかをご紹介。
1. 「さらばよ」の略。
2. 「また逢はばや(またあはばや)」が転じたもの。
3. 「按配よう(あんばいよう)」の略。
一番有力なのは3.の「按配よう」の略という説で、そもそも「按配」が「体調」の意味で使われ出したのが近世で、「あばよ」も近世から使われているからだとか。
個人的には「また逢はばや(またあはばや)」説を押したいです。今の使われ方とのギャップがすごいですが、とってもロマンチック!
さいごに
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参考:『日本のこころの教育』(境野勝悟著) / 日本語どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~ / 語源由来辞典