植村明美
中秋の名月は1年で最も美しい月とされており、陰暦8月15日の晩に見るお月さまのことを指します。
陰暦はそのまま月の満ち欠けで決められていたので8月15日固定でしたが新暦を使う現在では毎年時期がずれますので今年2018年は9月24日が中秋の名月です。
俳句の季語(季題)では月といえば9月の月、名月といえばこの中秋の名月のことだけを指します。それだけこの日のお月さまは美しく特別で、満月以外にも9月の季語には満月を待つ月の名前、過ぎてからも名残惜しく楽しむような名前が色々あります。
新月から満月となりまた欠けていくこの1ヶ月の月の名前にはどんなものがあるのか見ていきましょう。
初月
初めて現れる月のこと。新月。人の目には触れない。
この月に限り初めての月を愛でていうのであります。
新月は肉眼では見ることができませんが、この始まりがあってこその満月。名月への期待が込められています。
二日月
二日目の月。まだ殆ど肉眼で見られないがこの月の美しい満月を祈って二日月とします。
三日月
陰暦8月3日の月。西の空に細くかかる。高くのぼったものを肉眼でも確認できるようになる。二日月までは殆ど見える事が無いので新月といえば初めて西の空に見える三日月をいう。俳句では新月として詠むが天文学的な新月とは解釈が異なる。
新月といえば未だ見えない月の始まり1日目の月のことですが、俳句ではそれを初月と呼び、三日月の別名を新月と言います。今の時代の天体を見る場合の解釈とは違うので、作品を読み解く場合は注意が必要です。
三日月に必ず近き星一つ 素堂
夕月夜
新月から8日頃までの上弦の月。また、新月からしばらく宵方だけ月のある夜をいう。
新月から8日頃までの月は夕方には月が空に昇り、夜中には沈んでしまう。その夕方の月が上がっている様や、既に月が沈んでしまって暗い夜の様をいう。
待宵
旧暦8月14日の月。またその夜をいう。名月を明日に控えた宵。またその夜の月。名月に満たない小望月として愛でる心もある。
待宵をたゞ漕行くや伏見舟 几董
月
ただ「月」というと俳句では秋の季題。秋の月のことを指す。他の季節に月のことを詠みたい場合は「春の月」や「朧月」などを使わなければならない。それほど秋の大気が澄んでいる中昇る月は美しいということでしょうか。
他に月白(月代)、月影、月夜、遅月、月明、など。
藍色の海の上なり須磨の月 正岡子規
月出づる しばらく山を伴ひて 水田のぶほ
月天心貧しき町を通りけり 蕪村
名月
旧暦8月15日の月、仲秋の月のこと。明月、望月、満月、今日の月、月今宵、ともいい、十五夜はこの日の夜をいう。新芋を備えて月を祭るところから芋名月ともいう。
満月が真上に来た際の明るさは大体0.22ルクス程度、100ワットの電灯をおよそ20メートルの高さから下げたぐらいと言われているようです。
他に何も電気などない時代ですから相当その明るさを楽しめたのではないでしょうか。
名月や門へさしくる潮頭 芭蕉
名月や畳みの上に松の影 其角
名月や夜は人住まぬ峰の茶屋 蕪村
無月
旧暦8月15日の夜 曇天や雲が多いなどで月が見えない状態をいう。 雨月も含み広く無月という。
手枕のそばの無月の筆硯 阿波野青畝
欄干によりて無月の隅田川 高浜虚子
ふりかねてこよひになりぬ月の雨 尚白
十六夜
「いさよい」と元は濁らないが近年は「いざよい」と濁って使うことが多い。既望ともいう。旧暦8月16日の夜及びその夜の月をいう。
立待月
陰暦8月17日の夜の月をいう。名月を過ぎると出がだんだん月の出が遅くなり姿も少しずつ欠けていく。 立待月は立って待っているうちに出る月という意味。
雨つづく立待月もあきらめて 稲畑汀子
居待月
臥待月
旧暦8月19日の夜の月。毎日遅くなる月の出を臥床(ふしど)の中で待つということ。寝待月ともいう。
ふけまちづき。旧暦8月20日の夜の月で午後10時頃に出るため亥の正刻から「二十日亥中」ともいわれた。
更待ちの月を帰国にともなへり 稲畑汀子
陰暦8月23日の夜の月。夜更けて上る下弦の月。
名月を過ぎ20日過ぎともなるとなかなか月があがらない。それまでの夜の闇をいう。
出典・引用
ホトトギス新歳時記 改訂版 編者:稲畑汀子 発行:三省堂