TOP / 言葉 2019.05.17

十分と充分の使い分け

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じゅうぶん

同じ意味の言葉でも書き方が何通りかある言葉があります。
「さびしい(寂しい/淋しい)」や「ほめる(褒める/誉める)」、「じゅうぶん(十分/充分)」などです。
今回はその中の「じゅうぶん」を取り上げます。

元々は十分

同じ意味の言葉でも書き方が何通りかある言葉のほとんどは、常用漢字とそうでない漢字(常用外漢字)の組み合わせであることがほとんどです。
しかしながら、十分・充分の「十」と「充」はどちらも常用漢字。音読みで「ジュウ」が登録されているところまで一緒です。
元はどちらの字が正しかったのでしょうか?

じゅうぶんは元々は「十分」と書きました。
その意味は「満ち足りて不足のないさま」「充実して完全であるさま」です。
満ち足りているさま、充実しているさまという意味から「充」という字が当てられるようになりました。

公文書のじゅうぶん

公文書ではどちらの「じゅうぶん」を使えばよいのでしょうか。
文化庁が公表している「用字用語例」にはこんな記載があります。

字句 言いかえ・書きかえ例 摘要
C 充分 じゅうぶん,(十分)

用字用語例は、公文書を作成するときに参考にするための資料で、問題となる漢字漢語について言いかえや書きかえの基準を示したものです。
公文書は用事用語例の書き方に則って作成されるのが一般的なのです。
上の表の「C」は、当用漢字表・同音訓表には記載があるものの、「公用文作成の要領」によって、かな書きが適当とされるものを表わします。
また、言いかえ・書きかえ例に括弧で「十分」が挙げられていますが、括弧内のものは、やむを得ない場合以外は使わないことと定められています。
つまり、公文書においては「じゅうぶん」はひらがな表記が好ましいとされているのです。

ところが、日本国憲法第37条で使われているのは「充分」という漢字表記です。
このことから、あくまで用事用語例は絶対の規則ではなく、参考資料にとどまっていることが分かりますね。

第三十七条
すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。

十分と充分の使い分け

さて、全く同じ意味の「十分」と「充分」ですが、使われている漢字の違いから、使い分けをしている人もいるようです。
「十分」の「十」は数を表すことから、数値的、物理的、客観的に満たされていることに関して使うことが多いとか。
対する「充分」の「充」は、「充足」や「充実」などの言葉が表わすように、満ち足りていることに重きを置きます。つまり、物質的というよりは精神的・主観的に満たされていることに使われるそうです。
どちらを書くか迷った場合は、元々の表記であった「十分」を書く方が無難でしょう。
ただし、「十分」は時間の「10分」と混同してしまう場合が稀にあるため、「十分、炒めた」などの表記をする際はひらがなや充分を使った方がよさそうです。

参考:デジタル大辞泉 / 違いがわかる辞典 / 文化庁 公用文の書き方資料集

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