内田絵梨
平仮名を覚えたての頃、お寺さんの御経に間延びした「く」を見つけて、「へんなの~」と思いながら「くー」と長めに読みました。
それを聞いた祖母は笑いながら「同じ言葉を繰り返すんよ」と教えてくれました。「く」と書いてあるから「く」と読んだのに、なんだか納得がいかなかったのを覚えています。笑われた恥ずかしさで「そういうもんか」と素直に飲み下せなかったので、「繰り返しの『くー』なんだな」と無理やり納得したのを覚えています。
今日はそんなくの字点と、同じ踊り字の一の字点のお話。
一の字点
一の字点は、国語の教科書や会社の名前などで見たことがある人も多いと思います。
同じ字を繰り返す踊り字の一種で、「ゝ」「ゞ」「ヽ」「ヾ」といった記号です。
よく知られるのは福沢諭吉の『学問のすゝめ』や夏目漱石の『こゝろ』、「いすゞ自動車」、童謡詩人「金子みすゞ」でしょうか。
上に挙げた「すゝめ」「こゝろ」「いすゞ」「みすゞ」から分かる通り、「ゝ」「ゞ」は平仮名を2字重ねるときに使います。
濁点が付いているので「ゞ」は同じ平仮名に濁点を付けて読むという法則です。
一方「ヽ」と「ヾ」は片仮名を2字重ねるときに用います。
こちらはあまり見る機会がないので馴染がないかもしれません。それでも昔の本などを読むと出てくることがあります。
「バナヽ」や「ツヽジ」、「スヾメ蜂」や「サヾエ」といった具合です。
一の字点は現在では、固有名詞以外では使わないのが一般的になっています。
もしかしたらこれから消えていく記号なのかもしれませんが、ちょっとした知識として覚えておきたいですね。
ちなみに一の字点の「ゝ」と「ゞ」は、今でも子供の名付けに使うことができる記号です。
名前に使える記号 | 々 ゝ ゞ - |
名前に使える記号4つの内、3つが踊り字というのは興味深いですね。
くの字点
「くの字点」は「一の字点」より見る機会が減った踊り字でしょう。
平仮名の「く」を縦に伸ばしたように書く記号です。その性質から縦書きの文章のみに用いられます。
2文字以上の仮名、もしくは漢字と仮名を繰り返す場合に使います。
日本はオノマトペが多いので、繰り返しの音に使うのに非常に便利だったのでしょう。
面白いのは3回の繰り返しの場合は「くの字点」を2回繰り返して書きますが、4回繰り返すときは2回目の繰り返しと4回目の繰り返しのときのみ「くの字点」を使うところです。
踊り字は省略の記号です。文書の写しは手書きしか方法がなかった時代に、読みやすく、書きやすくするために発達した素晴らしい知恵だったのでしょうね。
おまけ
当社はBUSINESS名刺印刷所という印刷会社も運営しています。
こんな文字は対応できるかな? というようなご相談にも乗りますのでぜひBUSINESS名刺印刷所のサイトもご覧ください。
参考:ことば研究館 / コトバンク