内田絵梨
あっという間に8月が駆け抜けていきました。
この夏、やり残したことは何かないかしらん? と思いを巡らせて行き当たったことは「今年、かき氷食べてない!」
子供のころは8月と言えばかき氷。祭で、プール後に、おやつにと夏休みの友だったかき氷ですが、年々その存在が遠のいていっています。
実家のかき氷器、きっと埃をかぶっているだろな……。
今回は夏を惜しむ、かき氷のお話し。
かき氷の歴史
かき氷の歴史は古く、史実上最初の記録は清少納言の『枕草子 第四十二段あてなるもの』だと言われています。
あてなるもの、薄色に白襲(しらがさね)の汗衫(かざみ)。かりのこ。削り氷(けづりひ)にあまづら入れて新しき鋺(かなまり)に入れたる。水晶の数珠(ずず)。藤の花。梅の花に雪の降りかかりたる。いみじううつくしき児(ちご)の、いちごなど食ひたる。
上品なもの。薄紫の袿(うちぎ)の上に着た白の汗衫(かざみ=平安貴族の女児用の薄手上着)。水鳥の卵。かき氷に甘葛のシロップをかけて、新しい金属製のお椀に盛ったもの。水晶の数珠(じゅず)。藤の花。梅の花に雪が降りかかった光景。たいへんかわいい子供が、いちごなどを食べている様子。
(※内田訳です。専門家ではないので、ところどころ間違っているかもしれません。)
この時代のかき氷は「削り氷(けづりひ)」と呼ばれていました。
もちろん、平安時代に冷凍庫はありませんから、夏の氷は非常に貴重。冬の間に天然の氷を切り出して、山の麓の穴倉や洞窟の奥に作った氷室(ひむろ)と呼ばれる貯蔵庫で大事に保管されていました。
宮中では「氷の朔日(こおりのついたち:旧暦の6月1日)」にこの氷を食べることで、暑気払いを行っていたそうです。夏は暑いので氷室から都へ運ばれる間に氷はどんどん溶けていきます。残った氷は一部の特権階級の人々の口にしか入りませんでした。
氷が身近になるまで
清少納言の時代から長らく夏の氷は貴重で、庶民がかき氷を口にできるようになったのは明治時代になってからのことです。
そもそもの氷が身近な存在になったのが、江戸時代の末期のこと。黒船襲来により横浜に開港場がつくられたことにより、氷の輸送技術がなかった日本でもアメリカのボストンの天然氷(ボストン氷)が輸入されるようになりました。この氷は出発から半年以上もかけてアフリカを経由し、日本に到着するという手間がかかっていたため、みかん箱やビール箱大ほどの大きさで3両~5両(現在の30~60万円)もしたそうです。
この氷に目を付けた日本人が中川嘉兵衛(なかがわかへえ)という人。西洋の食文化の普及・流行を予感し、牛肉と牛乳を広めたすごい人です。
中川嘉兵衛は失敗を繰り返しながらも全財産をつぎ込んで氷業に従事し、ついに北海道の五稜郭に製氷場を設けて本格的に氷の生産を始めました。
これが明治3年(1870年)のことなので、函館戦争が終わった翌年ということになります。
「函館氷」と命名し、販売された中川嘉兵衛の氷は、輸入氷よりも安くて良質であったことから人気となり、宮内庁御用達にもなりました。
ちなみに日本初のかき氷屋がオープンしたのは文久2(1862)年の夏のこと。函館氷が販売される8年前です。
横浜の馬車道通り開店した「氷水屋」は、開店当初こそ「腹に悪い」という噂のせいでなかなか売れませんでしたが、ひとたび安全だと分かると爆発的に売れました。
「氷水屋」で売られたかき氷は店名のとおり「氷水(こおりすい)」と呼ばれ、1杯2文で2時間並ばないと買えないほどの人気だったとか。
夏に冷たい氷を食べる至福を考えると、この人気は当然であるように思います。
かき氷を食べるとキーンと頭が痛くなるアレ
かき氷を食べるとキーンと頭が痛くなることがありますよね。
「あれさえなければ……」と思う人もたくさんいるでしょう。
あの頭痛は医学用語では「アイスクリーム頭痛」と呼ばれています。
アイスクリーム頭痛が起こるメカニズムは、実のところ解明されていませんが、その原因とされている説は2つあります。
一つはかき氷を食べた際に口と喉の温度が急激に低下することで、口を温めようと反射的に頭の血管が拡張して炎症をおこし、頭痛を感じるという説。
もう一つはかき氷を食べたことで、刺激の強さに喉の三叉神経が混乱してしまい、「冷たさ」を「痛み」と勘違いし、さらに刺激があった場所を「口」ではなく「頭」と認識してしまうというもの。「混乱しすぎだろ! 三叉神経!!」とつっこみを入れたくなる説ですね。
どちらの説も口が急激に冷やされることでアイスクリーム頭痛が発生するという点は共通です。
そのため、アイスクリーム頭痛を起こさないためには「ゆっくり時間をかけて食べること」、「先に冷たい飲み物などで口の中を冷やしておくこと」が有効です。
また、最近流行りのふわふわの天然氷のかき氷はアイスクリーム頭痛が起きにくいとか。
これは、製氷機で作られる氷がマイナス10℃前後なのに比べ、天然氷はマイナス4℃前後と温度が高いこと。
加えて、ふわふわで削りが細かいので口の中で溶けるスピードが速いこと。
以上の二点から「冷たい刺激」を受け取る時間が短くなるためです。
ちょっと工夫を凝らして上手にかき氷を楽しみたいですね。
参考:日本文化の入口マガジン和樂 / 食と暮らしを考えるこおらす / レジデントノート2016年8月号 / 一般社団法人日本アイスクリーム協会 / クックパッドニュース