内田絵梨
交差点のことを何と呼びますか?
四つ角、四辻、四つ叉、十字路……。いずれにしろ、数字が入る表現がぱっと思い浮かぶと思います。
その中でも「十字路」は道路を俯瞰して見たときに、道路の形そのままが「十」という漢字に集約されているのでわかりやすいですよね。
では上図のような標識で表される道路はどうでしょうか?
T字路? 丁字路? あなたは何と表現しますか?
T字路と丁字路
漢字を知らない人、アルファベットを知らない人が「T字路」と「丁字路」を見比べたとき、どちらも同じ字だと判断してもおかしくないくらいTと丁の字は似ています。
また読み方も「ティージロ」と「テイジロ」。非常に似ていてこんな偶然の一致があってよいのかと疑ってしまうほど。
それでもTは間違いなくアルファベットであり、丁はまごうことなく漢字です。
Tや丁の字のよう3本の道路が交わる交差点のことを、日本では元々「丁字路」と呼んでいました。
十字路のように、見たままの道路の形を「丁」の字になぞらえて表現したのです。
このような交わりを「丁」の字で表現する歴史は古く、袈裟や鉢などの修行僧の持つ六種の仏具について図解した『六物図抄』(1508年)にはこのような一文が出てきます。
丁字にぬうは鳥足縫の事也。これを三叉の相(サウ)とも云ぞ。鳥の爪を前へ三つかけてつかむが如し
鳥足(ちょうそく)縫いは日本古来の縫い方で、鳥の足の形のように三叉に分かれた形をしています。
この縫い方の形を表すために「丁字」という言葉がまっさきに使われているのです。
また引用した一文には、鳥足縫いは「三叉の相」と呼ぶことも紹介されていますが、そういえば丁字路のことを三叉路とも呼びますね。
俯瞰して丁字に見立てて言うのか、三叉に分かれているというふうに見るのか、どこに重きを置くかで表現が派生していったようです。
一方、T字路という表現はどうでしょうか?
アルファベットが日常的に使われるようになり、「Tシャツ」といった言葉も一般に受け入れられるようになった頃、「丁字」を「T字」と勘違いして使う人が次第に増えていきました。
文字の形、そして特に発音が非常に似通っていることから仕方のないことだったのかもしれません。(その証拠に十字路をX字路とは呼びません)
今ではNHKでさえ、「丁字路」「T字路」どちらも放送用語として用いてよいという見解を持っています。
それだけ「T字路」が一般に浸透した言葉になったといえるのでしょう。
もしかしたら「丁字路(テイジロ)」は「T字路(ティージロ)」の訛りだと勘違いをしている人すらいるかもしれません。
一方で、新聞ではいまだに「丁字路」だけを使い続けています。
丁字路、T字路。
言葉は変化していくものですが、あなたはどちらを使いますか?
おまけ
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参考:NHK放送文化研究所 / NHKことばのハンドブック / 日本語、どうでしょう