内田絵梨
12月に入り、寒さもひとしお身に染みる頃になりました。
夜寝るときなどは手足の冷えがひどくなかなか寝付けない、という人もいるのではないでしょうか。
今回のお話しはそんな冷えを表す「冷たい」の語源です。
「冷たい」の語源
さて、皆さんは「寒い」と「冷たい」をどのように使い分けていますか?
おそらく、体の一部に触れたときに感じる温度の低さを表すときに「冷たい」。
体全体で感じる気温の低さを形容するときに「寒い」と使い分けていると思います。
缶ジュースは触れたり、飲んだりすると温度の低さを感じるから「つめた~い」。「さむ~い」とは言いません。
「冷たい」はなぜ、体の一部と限定的なのでしょうか?
それを知るのにヒントになるのが「冷たい」の語源です。
「冷たい」の元の形は「爪痛し(つめいたし)」。
これが転じて「つめたし」となり、現在使われている「つめたい」になったのです。
爪が痛みを感じるほどの寒さを想像してみてください。
凍えるような冬。吐く息は白く、寒さから指先や足先、耳などの体の一部がじんじんとうずきます。
本来は、このように「爪が痛いほど寒い」ことに使われていたのですが、いつしか触れたものの温度の低さを表現する単語として変化していきました。
爪が痛いほどの「寒さ」から、爪が痛い(体の一部が痛い)ほどの「温度の低さ」へと意味が変わっていったのですね。
さて、この爪痛し。実はかなり昔の表現で、少なくとも平安時代より前の言葉と言われています。
清少納言の『枕草子』でも「つめいたし」ではなく「つめたし」という言葉が使われています。枕草子をみる限りだと、この頃は、「寒さ」も「冷たさ」もどちらも表現できる言葉だったようです。
第137段 「なほ世にめでたきもの」より
……寒くさえ氷りて、うちたるきぬもいとつめたう、扇もたる手のひゆるもおぼえず。
(……寒くて凍るような感じだが、打ち衣も冷たく、扇を持っている手が冷えているのにも気づかない。)引用:Es Discovery
第179段 「宮に初めて参りたるころ」より
いとつめたきころなれば、さし出でさせ給へる御手のはつかに見ゆるが、……
(とても寒い頃なので、差し出した袖からお手がちょっと見えるのが、……)引用:Es Discovery
人を表わす「つべたまし」
また、「冷たい」の意味は現代では2つあります。
意味は皆さんご存知の通り、人を表わす場合です。
つめた・い【冷たい】
[形][文]つめた・し[ク]
1. 温度が低く感じられる。
2. 思いやりがない。冷淡である。よそよそしい。
大辞泉より
「冷たい」は物の温度の低さから、比喩的に人の態度や性格が冷淡であることも差すようになったのですね。
昔は「つべたまし」という「つめたし」から派生した形容詞が使われていました。「つべたまし」は人に対してのみ用いられる形容で、いつしか「冷たい」に統合されてしまったのです。
「つべたまし」は『源氏物語』の柏木で見ることができます。
この聖も、丈高やかに、まぶしつべたましくて、荒らかにおどろおどろしく陀羅尼読むを……
(この聖も、背丈が高く、まなざしが冷酷であって、荒々しい大声で陀羅尼を読むのを、……)
語源を知ると、今まで何気なく使っていた言葉に持つ印象が少し変わりますね。
おまけ
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参考:語源由来辞典 / Weblio古語辞典古語辞典