内田絵梨
赤電話などに「故障中」というはり紙がしてあるのを時々見かける。――単に「故障」とある方が自然な感じだと思うのだが。
(「言語生活」1981.06掲載, 佐竹秀雄編『言語生活の目』筑摩書房 p.484より)
これは1981年6月に雑誌「言語生活」に掲載された人気コラムの一節です。
皆様は「故障中」という言葉に違和感を覚えますか?
私個人としてはあまり気にならない表現なのですが、改めて聞かれると間違っているような気もします。
はたして「故障中」は誤った表現なのでしょうか?
「故障中」は誤用派
「中(ちゅう)」という言葉は主体が人間であるときに使う表現だから
「中(ちゅう)」は主体が人であるときに使います。
営業中、勉強中、仕事中など人が主体の場合にしか使えません。
「故障中」の主体はモノなので誤用です。
「故障中」は重複表現だから
「故障」とは物事の正常な働きが損なわれている状態を指します。
一方、名詞の接尾に着く「中(ちゅう)」は状態を伝える言葉です。
「故障」だけで既に状態が表されているのに、「中」を付け加える必要はありません。
瞬間動詞には使えない
「~中(ちゅう)」となるのは時間的に継続する事柄でなければいけません。
一瞬の変化を表す名詞である「故障」を「故障中」とするのは誤りです。
「故障中」は誤用とは言いきれない派
母語話者がその表現を不自然と感じるかどうかによる
「~中(ちゅう)」は「動作を一時的に保つ」ことを表す表現で、典型的には「~し続ける」という言い方が成立するものについて用いられます。
例を挙げると食事中、走行中、滞在中などがそうです。
しかしながら「~し続ける」という言い方が成立しない場合でも、人が主体であり、かつ「いずれ解消される状態を一時的に保つ」という意味が認められれば比較的成立しやすくなります。
例えば、「婚約中」や「就寝中」はいずれ解消される状態を一時的に保っている表現のため成り立ちますが、「死亡中」や「結婚中」とは言い表しません。
「故障中」を見てみると、人が主体ではありませんが「いずれ解消される状態が一時的に保たれている」という意味は認められます。
典型表現とのずれと共通性を、どこに見出すかによって誤用にも正用にもなりえます。
結局どう表現すればよいのか
比較的古い文献を見ると「故障中」を誤用とするものが多いのですが、違和感を覚える人は少なくなっている傾向にあるようです。
「故障中」に違和感は覚えないけれど、誤った日本語を使っていると思われるのは嫌だという方は「故障」という表現を言い換えるのが手っ取り早いと思います。
「修理中」や「調整中」と書いておけば問題ないでしょう!
おまけ
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この記事のように言葉に向き合い、丁寧な対応を心掛けて日々受電・架電を行っています。
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参考:コトバノ / 国立国語研究所 / 「恥をかかない日本語の常識」(日本経済新聞社編・1998年1月23日) / 参考:「タモリのジャポニカロゴス」(2005/10/25放送)